とモタモタしているうちに、2017年度のトニー賞のノミネーションが発表されていました。
ノミネーション発表の動画がこちら。
2017 Tony Award Nominations Announcement
プレゼンターは、ジョージ・ワシントン閣下、じゃなくて、クリストファー・ジャクソンとジェイン・クラコウスキー(Jane Krakowski)。クラコウスキーは日本でも人気だったTVドラマシリーズ『アリーMy Love』(Ally McBeal)で、主人子アリーの秘書エレインを演じていた方ですね。あのドラマでは、もっとぽっちゃりして3枚目を演じてましたけど、ブロードウェイの人気役者でもあるんですよね。最優秀主演女優賞のところで、私の名前は?的に自分の名前を言っています(笑)。
全ノミネーションを確認するには、CBS Newsの下の記事が見やすいですね。
2017 Tony Awards nominations announced
さて、最優秀ミュージカル(Best musical)部門ノミネーションは、
全ノミネーションを確認するには、CBS Newsの下の記事が見やすいですね。
2017 Tony Awards nominations announced
さて、最優秀ミュージカル(Best musical)部門ノミネーションは、
Come from Away
Dear Evan Hansen
Groundhog Day
Natasha, Pierre & the Great Comet of 1812
の4作。脚本(Best Book)、オリジナル・スコア(Best Original Score)部門も同じ顔ぶれなので、2017年度審査対象の新作では、この4つで決まりというところなんでしょう。
ちょっと前に、spotifyを利用し始めて、ミュージカルのアルバムもたくさんある(便利!だし、安い!)ので聴いているんですが、上の4作も聴いてみました。で、簡単な情報と感想を――。
① Come from Away
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ直後3日間の実話をもとに作られたカナダ発のミュージカル。
<あらすじ>
舞台は、カナダの東海岸ニューファンドランド島。9・11のテロ直後、アメリカ・カナダ東海岸付近を飛んでいた飛行機38機のが安全な着陸地を求めて、ニューファンドランド島の空港へと押し寄せる。空港に隣接するふだんは静かな町ガンダーの人々は大量の乗客たちを受け入れるために奮闘を始め、乗客たちとのあいだに仲間意識が生まれていく……。
トピックとしてニューヨーカーにはぐっとくるでしょうね。群像劇的な描きかたなので誰が主人公というのがなく、Come from Awayからは主演男優賞・主演女優賞がノミネートされていませんね。ジェン・コレラ(Jenn Colella)の名前が助演女優賞(Best performance by an actress in a featured role in a musical)にあがっています。彼女のパフォーマンスがこちら。
Come From Away in Toronto
Come From Away - Me and The Sky (LIVE) ― スタジオ・ライブ版
"Me and The Sky"はこのミュージカルでは一番華のある曲ですね。内容も面白くて、コレラ演じる女性パイロットが男性中心社会だった航空業界に乗り込み、キャビン・アテンダントたちからも反発される中、女性初の機長となって夢を叶え……、と、一曲にぎゅっと1人の女性の人生を詰め込んでいます。これは、助演女優賞とってもよさそうかな。
ただ作品全体としては、私個人の感想として、音楽的に単調かなあ、と。アイリッシュ音楽が基調で、3、4曲までは調子いいんですが、どの曲も盛り上げ方が同じなんですよね。少なくとも、レコーディングだけで体験していると飽きちゃう感じ。Best Musicalというには疑問が残る……。
② Dear Evan Hansen
<あらすじ>
イケていない高校生エヴァンがそれほど親しくはなかったクラスメイトのコナーが自殺した後、無二の親友だったと周囲に誤解される。エヴァンの学校での追悼スピーチがインターネット上でviralな動画となり、コナーを忘れるなキャンペーンで注目を集めるようになって……。
この作品は、わかりやすくグッとくる曲が多いのがいちばんの強みですね(ちなみに、編曲は『ハミルトン』のアレックス・ラカモア。トニー賞編曲賞(Best Orchestrations)にふたたびノミネートされています)。評判になって長いので、ネット動画でも多数パフォーマンスがあがっています。主演のベン・プラットは、主演男優賞の最有力候補で、上のノミネーション動画でも拍手を集めていますね。そのプラットの歌、
Dear Evan Hansen: "Waving Through a Window"
演技のところのイケてないぶりと、歌唱のすばらしさのギャップがよい。
脚本もいいです。ミュージカルの肝は、脚本と曲の関係をいかに活かすかですが、コナーの「親友」として嘘をついていく内容の歌詞が、同時に、エヴァンの本当の望みの告白にもなっている……。前から好きだったコナーの妹に、コナーが妹を愛していると言っていたとでっちあげで伝えるシーンでも、実はエヴァン自身の思いが込められていて、なんというかそのギャップがグッとくるわけです。
Show Clips: DEAR EVAN HANSEN starring Ben Platt
どんどん嘘が大きくなるごとに、そこに込められる思いも強くなり、歌も物語も盛り上がるという、考えてみればよく分からない展開ですね。ミュージカルって、妙なものですね。
えーと、死んだはずのコナーが後の場面でも再登場してきます(コナー役マイク・ファイスト(Mike Faist)は助演男優賞でノミネート)。この辺りは、Next to Normal(2009年度トニー賞Best Original Score受賞作)と似すぎている気がしますね。家族崩壊のテーマとか、全体の曲調も Next to Normal と似ているなあ、そういえば。そう考えると、Dear Evan Hansen、現在のブロードウェイの標準的表現で、すごく新味があるというものではないですね。その分かりやすさが強みかもしれませんけど。
③ Groundhog Day
1993年公開の映画、邦題は『恋はデジャ・ブ』(うわー、、、)、現代は Groundhog Day のミュージカル化。映画では、『ゴースト・バスターズ』などで人気のビル・マーレイが主演しています。"Groundhog Day”は、アメリカの祝日で2月2日。リスの一種グラウンドホッグ(別称ウッドチャック)が巣穴から出てくるかどうかで春の訪れの早い遅いを占う日、だそうです。
<あらすじ>
テレビ気象予報士のフィル・コナーズはグランドホッグ・デイのお祭りの取材のために、ペンシルベニア州パンクサトーニーを訪れる。高慢なフィルは町の人々をバカにしながら一日を過ごすが、宿で翌朝に起きてみると様子がおかしい。終わったはずのグランドホッグ・デイがふたたび始まる。翌日も、またその翌日も……。
いかにもミュージカルにしてみたら面白そうだな、というあらすじですね(スティーヴン・ソンドハイムがミュージカル化を考えたこともあったそうで)。オーストラリア出身(生まれはイギリスですが、育ったのが西オーストラリアのパース)のコメディアン、俳優、ミュージシャンのティム・ミンチンが作詞作曲をつとめています。『ジーザス・クライスト・スーパースター』40周年アリーナ・ツアーでは、イスカリオテのユダ役を演じていますね。多才な人です、それにルックスにインパクトがある。
ネット上の動画はいまいちいいのがないのですが、こんな感じの作品です。
Groundhog Day
ティム・ミンチンの弾き語りのほうが動画が多いですね。
Seeing You (Groundhog Day) by Tim Minchin at the 20th South Bank Sky Arts Awards
アルバムでは、主演のアンディ・カール(Andy Karl)とミンチンの二人の名前がクレジットされた曲が多いのですが、ステージではどんなふうに演奏・歌われるのかがいまいち分かりません……。
Best New Musical - Groundhog Day - Olivier Awards 2017
イギリス産のミュージカルのブロードウェイ進出。舞台はアメリカですが、全体の曲調にイギリス産ミュージカルっぽさを感じますね。
うーん、個人的には、それほどファンにはなれない作品です。どの曲もよく出来ているし、もともと物語(脚本)もアイデアがいいんですが、あと一押し足りないような。ちょっと悪い意味で、いかにもミュージカルというか。あ、あくまで、実際に舞台を見ていない、ネット映像と音声だけを聴いた人間の感想ですので、それほど真に受けないでください(笑)。
④ Natasha, Pierre & the Great Comet of 1812
ロシアの文豪レオ・トルストイの名作、『戦争と平和』から一部を抜き出してミュージカル化した作品。いろんな意味で、4作の中で一番新しく、実験性もある作品みたいです。それにしても、タイトルが長い。ので、"The Great Comet"と略して呼ばれちゃってますね。トニー賞ノミネーション12個で、数では去年の『ハミルトン』に迫る勢いですね。
<あらすじ>
1812年、ナポレオン率いるフランス軍との戦争が迫るロシア。中年の貴族ピエールは親友のアンドレイが出征してしまい、結婚生活にも満足できず、自分の存在に疑問を抱き始めている。一方、アンドレイの婚約者ナターシャはアンドレイの家族に気に入られようとするもののうまく行かず、言い寄ってきたプレイボーイ、アナトールに口説き落とされてしまう……。
ナターシャ役はオフブロードウェイまでは、『ハミルトン』のイライザ役オリジナル・キャスト、フィリッパ・スーがつとめていました。どうやら、ナターシャ役でのパフォーマンスが素晴らしかったので、『ハミルトン』に引き抜かれちゃったようです。2013年のパフォーマンスからの動画がこちら。
Natasha, Pierre, and the Great Comet of 1812
ブロードウェイでは、アフリカ系のドゥネイ・ベントン(Denée Benton)で、カラーブラインド・キャスティングですね。二人の歌唱を並べた動画がありました。
Phillipa Soo & Denée Benton - No One Else (Live) [Mash Up]
さらに、現在のジョシュ・グローバン(Josh Groban)と入れ替わりで7月からピエール役をつとめるのが、『ハミルトン』でハーキュリーズ・マリガン役だったオキエリエテ・オナオドワンだそうです。となると、ロシアが舞台、ロシア貴族が登場人物の物語で、主演二人がアフリカ系ということに。
この作品でいちばん面白いのは、ステージがロシアン・クラブを模したものになっていること。最初のプロダクションでは、丸テーブルが並べられている客席がそのまま舞台で、演者はその中で楽器を演奏し、歌うというかたちだったそうです。さすがにブロードウェイではそれは無理なわけですが、ステージ上にテーブルが並べられていて、お金を余分に払ったお客はそこに座れることになっているそうです。動画にもちょっと映っていますね。
Natasha, Pierre and the Great Comet of 1812 highlights
WHAT IS THE COMET - a documentary about 'Natasha, Pierre & The Great Comet of 1812'
音楽的には、ロシア音楽、クラシック、クレズマー、エレクトロニック・ダンス・ミュージックをミックスしたかなり独創的、ながら、どこか聞き覚えがあるように感じる。音楽的には、最優秀ミュージカル・ノミネート作品4作の中でいちばん出来がよいのでは? クリエーターによると、この作品はミュージカルではなく、ポップ‐オペラ(pop-opera)だそうです。
2015年:Fun Home、2016年:Hamilton: An American Musical、という流れからすると、Natasha, Pierre & the Great Comet of 1812 が最優秀ミュージカルを受賞すると、新しい流れを引き継いでいることになる気がするんだが、どうか。4作比べてみて、これまで考えられなかったような作品を実現しているのは、これじゃないかという感じがします。でも、堅実な Dear Evan Hansenが受賞するのも悪くはないですね。
で、受賞予想をしてみます(べつに2位以下は関係ないですが、とりあえず)。
① Dear Evan Hansen
② Natasha, Pierre & the Great Comet of 1812
③ Come from Away
④ Groundhog Day
それとは別に、個人的に希望する順位、
① Natasha, Pierre & the Great Comet of 1812
③ Groundhog Day
④ Come from Away
2017 Tony Awards predictions: Bette Midler is a lock but upsets loom in other top races
あと、上を書いてから観て、ほぼすべての意見に賛成だったのが、こちら。
The 2017 TONY BEST MUSICAL NOMINEES
*
2017年度トニー賞、『ハミルトン』関連の人たちでは、ラカモアに加えて、
Best choreography ― Andy Blankenbuehler, "Bandstand"
Best scenic design of a musical ― David Korins, "War Paint"
の二人がノミネートされていますね。みなさん、働きものです。
ちょっと気になったのが、こちらの動画。
Meet the 2017 Tony Nominees
ノミネートされた人たちのインタービューですが、うーむ、「白い」ですね。去年の『ハミルトン』や『カラー・パープル』独占の状況が異例だったのかが分かりますね。あ、去年のがありました。
Meet the 2016 Tony Award Nominees
いやー、えらい違いです。The Great White Wayはまだまだ健在、かな。
ヒップホップ・ミュージカルは……、ないですね。といっても、ミュージカル製作は何年もかかるものだそうですし、上のどの作品も『ハミルトン』と同時かそれ以前から企画が進んでいたものでしょう。『ハミルトン』の影響が大きく出てくるとしたら、5年後とか、そのぐらい後になるんでしょうか。
トニー賞受賞作発表は、6月11日、司会はケヴィン・スペイシーだそうです。