『ハミルトン』第一幕では、アメリカ独立騒ぎのなかで成り上がりを目指すハミルトンが、長年のライバルとなるバー、独立革命仲間ローレンズ、ラファイエット、マリガンの3人組と出会い、ワシントン将軍に見込まれその右腕となって秘書・軍指揮官として尽力、アメリカ合衆国が彼らの活躍によって独立を果たす過程が描かれます。一方で、ハミルトンがスカイラー姉妹と(裏ではバーが既婚女性と)出会い・・・という恋バナもあり。
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第一幕、主要登場人物:
[名前のリンクは、Biography.com (www.biography.com)より。Wikipediaより信頼がおけて、動画もついています。リンクの記事が長いなあと思う人は、mini-biographyを見てください。]
アレグザンダー・ハミルトン(Alexander Hamilton):
1755/1757年生、1804年没(ミュージカル中では二つの有力な説の間をとって1756年生まれ)。アメリカ合衆国初代財務長官。米10ドル札紙幣の顔。
アーロン・バー(Aaron Burr):
1756年生、1836年没。アメリカ合衆国第3代副大統領。ハミルトンを決闘で打ち殺したことで歴史に名をとどめる(二人の決闘の経緯についは、
こちら)。
ジョン・ローレンズ(John Laurens):
ハミルトンの一番の親友。南部サウスカロライナ州の大農園主の息子だが、徹底した奴隷制反対論者。黒人で編成された軍を率いるのが夢。
マルキ・ド・ラファイエット(Marquis de Lafayette):
フルネームはMarie-Joseph Paul Yves Roch Gilbert du Motier, Marquis de Lafayette。“Marquis”は侯爵で、フランスの貴族の出。アメリカ独立の動きに刺激を受け渡米(1777年→1776年より後!)、フランスとのパイプ役を務めながら独立戦争に無償で参加。
ハーキュリーズ・マリガン(Hercules Mulligan):
ハーキュリーズは古代ギリシャの神様ヘラクレスの英語読み。作ったみたいな名前ですが実在の人物の本名。アイルランドからの移民で、ニューヨークのズボン縫製職人。アメリカ独立の中で活躍して成り上がることを夢見ている。イギリス軍にスパイとして潜入。
ジョージ・ワシントン(George Washington):
1732年生、1799年没。アメリカ合衆国初代大統領(1789年-1797年)。独立戦争においてはアメリカ大陸軍の総指揮官をつとめる。
アンジェリカ・スカイラー(Angelica Schuyler):
ニューヨークの資産家・有力者フィリップ・スカイラー(Philip Schuyler)の長女。最新の思想や政治情勢にも通じた才女。
イライザ・スカイラー(Eliza Schuyler):
スカイラー家の次女。イライザは Elizabeth の愛称。ハミルトンの妻になる。長姉アンジェリカのかげに隠れた存在だが、周囲から信頼が厚く、行動力もある。
ペギー・スカイラー(Peggy Schuyler):
スカイラー家の三女。ペギーはMargaritaの愛称。まだ幼く両親の影響下にある。若くして亡くなったため、『ハミルトン』では第一幕のみの登場。
ジョージ三世(King George):
1738年生、1820年没。アメリカ独立時のイギリス国王(在位1760年-1801年)。
チャールズ・リー(Charles Lee):
イギリスの軍人の家に生まれ、イギリス軍、ポーランド軍で戦歴を重ねた後、アメリカに渡る。独立戦争時、将軍としてアメリカ大陸軍の副指揮官につくが、総指揮官のワシントンと対立する。(『ハミルトン』では徹底的に無能に描かれていますが、実在のリーは七年戦争や独立戦争でも活躍した、それなりに有能な軍人だったようです。)
サミュエル・シーブリ(Samuel Seabury):
米国聖公会の主教(bishop)。王党派つまり独立反対派で、”A. W. Farmer”の筆名で独立派を批判する「大陸会議の審議についての私的見解 Free Thoughts on the Proceedings of the Continental Congress」(1774)を出版、ハミルトンに論駁される(“Farmer Refuted” 1775年→1776年より前!)。
年表もつけてみます(『ハミルトン』劇中の年度を中心に)。
第一幕
1756 カリブ海ヴァージン諸島の小島ネイビス(Nevis、英語読みでは「ニーヴィス」;現在のクリストファー・ネイビス連邦)で、スコットランド系の父ジェイムズ・ハミルトン、フランス系の母ラシェル・フォーセット(Rachel Faucette)のもとにハミルトン誕生。その後、デンマーク領のサン・クロイ (St. Croix; 1916年にデンマークがアメリカ合衆国に売却、現在はアメリカ領)に移動。
1766 ハミルトンの父失踪。
1768 ハミルトンの母死去。
1770 ハミルトン、サン・クロイのクリスチャンステッドの貿易会社で働き始める。
1772 サン・クロイをハリケーンが襲い、クリスチャンステッドの町は壊滅的被害を受ける。その様子を書いたハミルトンの記事が地元の新聞で出版、感心した商人の集めた資金で、ニューヨークで教育を受けることに。
[ここまで、“1. Alexander Hamilton”]
1773 ボストン茶会事件。ハミルトン、ニューヨークのKing’s College(現在のコロンビア大学)に入学。
1775 アメリカ独立戦争始まる。ボストン包囲戦で、ワシントン将軍、アメリカ大陸軍を編成。
1776 アメリカ独立宣言。ニューヨークで、ハミルトンとバー、ローレンズ、ラファイエット、マリガンの出会い。
[“2. Aaron Burr, Sir,” “3. My Shot,” “4. The Story of Tonight”]
スカイラー姉妹、マンハッタンの街にくりだす。
["5. The Schuyler Sisters"]
ハミルトン、
The Farmer Refutedで、独立反対派のシーブリを論駁。
[“6. Farmer Refuted”]
(←ラファイエットの渡米が1777年なように、劇的構成(独立宣言の年に物語開始を合わせる)のために史実の改変があります。“Farmer Refuted”も実際の論戦は1774-5年に行われたもの。ハミルトンとマリガンがイギリス軍から大砲を強奪したのも1775年のことです。)
ハウ将軍率いるイギリス軍、ボストンから撤退、ニューヨークへ兵力を集中、ロウワー・マンハッタンを占拠。ハーレム・ハイツの戦い。
[“7. You’ll Be Back,” “8. Right Hand Man”]
1777 ハミルトン、ジョージ・ワシントンの秘書に。
[“8. Right Hand Man”]
1778 仏米同盟条約で、フランスとアメリカ合衆国がイギリスに攻撃された場合の相互支援を約束)、フランス参戦。
1779 フランスの同盟国スペインも参戦("21. What Comes Next?” に言及あり)。
1780 ハミルトン、スカイラー姉妹と出会う。~ハミルトンとイライザが結婚。
[“9. Winter’s Ball,” “10. Helpless,” “11. Satisfied,” “12. The Story of Tonight
(Reprise),” “13. “Wait For It”]
モンマスの戦い―リーが副司令官になるが、ワシントンの方針に従わず、ラファイエットと交代させられる。ワシントンとリーの対立激化。
[“14. Stay Alive”]
(←歴史上のモンマスの戦いは1778年。アメリカ建国という「仕事」とイライザとの「家庭」との両立(あるいはその失敗)というテーマを強調するために順序が入れかわっている。)
リーとローレンズ(ハミルトンの代理)の決闘、ワシントンがハミルトンを自宅謹慎にする。
[“15. Ten Duel Commandments”、“16. Meet Me Inside,” “17. That Would Be
Enough”]
1781 ヨークタウンの戦いでハミルトンが歩兵隊を指揮し活躍、アメリカ大陸軍勝利に貢献。
[“18. Guns and Ships,” “19. History Has Its Eyes on You,” “20. Yorktown (The
World Turned Upside Down),” “21. What Comes Next?”]
1782 ハミルトンとバー、ニューヨークで弁護士に。ハミルトンの第一子フィリップ誕生、翌年、バーの第一子シオドゥジア(Theodosia)誕生。
[“22. Dear Theodosia”]
1783 パリ条約(1784年批准)、アメリカ独立戦争が正式に終結。
1787 アメリカ合衆国憲法制定会議、ハミルトンはニューヨーク州代表として参加。
1788 ハミルトン、マディソン、ジョン・ジェイによる合衆国憲法擁護論
The Federalist Papers出版。アメリカ合衆国憲法発効。
[“23. Non-Stop”]
1789 ワシントン、アメリカ合衆国初代大統領に。
作劇の事情で、少しずつ史実とずれるので、年表作成はそれなりにたいへん。
YouTubeに『ハミルトン』を史実から検証するビデオがあがっていますので、こちらも参考に。
こちらとか
こちら。
[
追記:第二幕の登場人物・年表はこちら。]
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さて、二曲目 "Aaron Burr, Sir"、時代設定は1776年で物語が始まります・・・。