2017年2月14日火曜日

"2. Aaron Burr, Sir" (from Hamilton: An American Musical)

"2. Aaron Burr, Sir"、"3. My Shot"、"4. The Story of Tonight"の3曲はワンセット。次の "5. The Schuyler Sisters"も含めて、第一幕の主要キャラクターが(ジョージ・ワシントンを除いて)みんな登場。

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"2. Aaron Burr, Sir"
1776年のマンハッタンの街角、ハミルトンは生涯のフレネミー、アーロン・バーと出会い、大学を短期で卒業するための秘訣を聞きだそうとする。そこに革命仲間となるローレンズ、ラファイエット、マリガンが酔っぱらって登場し、バーにからみはじめて・・・。

出会いの場面から、ハミルトンとバーの性格の違いが描きだされます。

[HAMILTON] Yes, I wanted to do what you did: graduate in two, then join the revolution. [...] So how’d you do it? How’d you graduate so fast?
[ BURR ] It was my parents' dying wish before they passed.
[ HAMILTON ] You're an orphan. Of course, I'm an orphan. God, I wish there was a war! Then we could prove that we're worth more than anyone bargained for.
[ハミルトン]そうです、あなたがやったように、二年で卒業して、すぐ革命に参加したかったんで。[...]で、どうやったんです?どうやってそんなに早く卒業できたんです?
[バー]亡くなった両親の生前の願いだったんでね。
[ハミルトン]あなたも孤児なんだ。ですよね、俺も孤児なんです。まったく戦争が起こらんもんですかね!そうすりゃ、俺たちが誰よりも値打ちのある人間だって証明できるのに。

初対面の先輩なのでこの時点では(というかこの時点だけは)低姿勢ではありますが、ハミルトンくん、会ったとたんに言いたいことをまくしたてます。一方、バーの返答は返答になっておらず、めんどくさそうなやつだな、いい加減にいなしておこう、という雰囲気がありあり(ちなみにバーの父はプリンストン大学(の前進)の学長で、「両親の望みで」というのはそういう含みもあります)。それでも「孤児」という共通点にとびついて、ノンストップにしゃべりつづけるハミルトン。このやっかいな後輩に対してバーが与えるのが、

[Bur] Talk less, smile more. Don't let them know what you're against or what you're for.
おしゃべりは控えめ、笑顔多めに。何に反対で何に賛成なのか、人に知られないようにしなさいよ。

というある意味妥当(革命うんぬんで捕まったり殺されたりもあるかもしれないので)、だけど、ハミルトンという人格には不可能なアドバイス。とにかく、思いついたら突進というハミルトン/周りの様子を見て慎重に慎重にのバー、という対比がポイント。

そこで登場するのが、酒場で盛り上がっているローレンズ、ラファイエット、マリガン。テーブルを叩いて、ボイスパーカッションしながら、それぞれラップを1ヴァースずつ披露していきます。ラップでいうところの、いわゆる「サイファー」の場面。

[Laurens] I’m John Laurens in the place to be! ● Uh, two | pints o' Sam Adams, but I'm working on three, uh! | ● Those redcoats don't want it with me, ● 'cause I will | pop chick-a-pop these cops ● 'til I'm free! |
[ローレンズ] 俺、ジョン・ローレンズ、ここ、俺の庭。サム・アダムス2杯飲んで、さらに今3杯目。赤コートのポリ公どもも俺をよけて通る、捕まってもバンバカバンってぶったいてハイ釈放。
 # 太字アンダーライン(単語からずれているところは●)が4拍子の拍が入るところ。

[LAFAYETTE] Ah oui | oui, mon ami, je m'appelle LafayetteThe | Lancelot of the revolutionary set! I | came from afar just to say "Bonsoir!" Tell the | king, “Casse-toi!” Who's the best? ○ C’est moi! |
[ラファイエット] あらまあ、ご友人、俺、ラファイエット。革命組の騎士ランスロット。はるばる来たよ、「こんばんわあ」。王様にも言っちゃうよ、「失せな」って。誰がいちばん?ってそれはまあ俺じゃん。
 # ○はちょっと間が入るところ。

[MULLIGAN] | Brrrah, brraaah! ● I am Hercules Mulligan. Up | in it, lovin’ it, yes, I heard your mother say “come again?” | ● Lock up your daughters and horses, of course, it's | hard to have intercourse over four sets of corsets. |
[マリガン] バババン、バババ! 俺はハーキュリーズ・マリガン。アゲアゲで楽しんで、お前の母ちゃんも「また来てね」。娘も馬も閉じ込めときな、楽じゃないけどな、コルセット四つ越しにヤルのは。

ローレンズの "in the place to be" は、Run-D.M.C., "Here We Go"The Beasty Boys, "Slow and Low"など初期ヒップホップによく出てくるフレーズ。ラファイエットはフランス語交じり(訛りはフランス人が聞くと微妙?)。マリガンの "Brrrah"(別の曲でも出てくる)は、ラッパーが使うマシンガンの擬音(マスケット銃しかない時代なはずなのに)。マリガンの最後のところは正直言ってはっきりは意味がとれない(とpodcastでアメリカ人も言ってたような)。

ヒップホップの引用元が示すように、ラップとしては(わざと)初期の荒くて単純なスタイルをとっていて、意図的に、内容も薄い、まあ単なる自慢話になっています。これがポイントで、次の曲 "3. My Shot"につながることで重要な意味をもちます。

この後、バーに三人組がからみ始め(優等生にからむ不良たちの図)、「おや、プリンストンの神童、アーロン・バーじゃねえか、お前もラップしてみろよ」と迫ります("Well, if it ain’t the prodigy of Princeton college! Aaron Burr, give us a verse.")。バーが軽くいなそうとしたところ、横から出てきたハミルトン。何なんだ、このガキは?と三人組。とここまでが、"2. Aaron Burr, Sir"。

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ミランダによると、ここでの人物の出会い方(まず未来の敵役、それから友人)はハリー・ポッター・シリーズで、魔法学校でハリーがまず敵のドラコ・マルフォイと出会い、その次にハーマイオニーとロンと出会うのをイメージしたらしい。

映画版ハーマイオニーがミランダにインタビューした映像が
Emma Watson interviews Lin-Manuel Miranda for HeForShe Arts Week
国連の女性の権利に関する意識向上プログラム向けにつくられたものみたい。エマ・ワトソンは『ハミルトン』を観たばかりらしく、最初からかなりハイテンションです。ワトソンのビートボックスでミランダがフリースタイル・ラップします(笑)。

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