2017年2月26日日曜日

『ハミルトン』と西洋音楽史

『ハミルトン』を体験していると、歴史について勉強になるなと思うときと、逆に時間の尺度がよくわからなくなるときがあります。特に、音楽については、いろいろなスタイルが詰め込まれていて、それがヒップホップ・メインの流れになっているので、ちょっと内容である18世紀末から19世紀始めの状況がどんなものだったか、忘れてしまいそう。当時の音楽的感性がどんなものだったか考えてみると・・・。

"6. Farmer Refuted"では、アレンジャーのアレックス・ラカモア(Alex Lacamoire)は音楽学校で習ったバッハ風の作曲法を使ったそうですが、大バッハ、ヨハン・セバスチャン・バッハが亡くなったのが、1750年。『ハミルトン』の物語の始まり、1776年は西洋クラシックの元祖的なものが生まれてからほどない頃なのですね。


ちなみにミュージカル内のハミルトン、そしてバーの生年は同じで、1756年(チャーナウの判断では、ハミルトンは1755年生まれで、1757年説の起源は本人がアメリカに渡ってから神童ぶりをアピールしたくて二年サバを読んだのではとのこと)。そして、1756年に生まれた西洋音楽史上の偉人が、あのヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)。


こうした年度の突き合わせをしてみると、"6. Farmer Refuted"の曲はハミルトンたちにとっての「現代音楽」だった、ヨーロッパに渡っていたジェファソンは、ヨーロッパを講演して回っていたモーツァルトの演奏を聴いたことがあるのかも、と想像が広がります。第二幕ではイライザと息子のフィリップがピアノの練習をする場面がありますが、ピアノもまだ新しい楽器だった、それをもっているハミルトン家はかなり金持ちだった?とか。


そういえば、『ハミルトン』の冒頭の曲、"1. Alexander Hamilton”の始めで、ダンダダダダンと強いリズムが鳴ってから、ラララーランとちょっと不思議な音形の短いメロディが続きますが、この部分はミランダによるデモテープではドアの軋む音が入っていた、それをラカモアがメロディ化したそうです。ということは、最初のダンダダダダンはドアをたたく音、それから運命のドアが開かれる音がつづく・・・って、これ、ベートーベン交響曲第5番「運命」(「このように運命は扉を叩く」伝ベートーベン本人談)じゃないですか!
『ハミルトン』ではハミルトンの運命が展開するところでこの音形がくりかえし表れます。まあ、これ以上ないほど「ベタ」だとも言えますが、ベートーベンと同じで「ベタ」を押し通してしまうところに芸術作品の真の強さがある、というべきでしょうね。

18世紀後半から19世紀始めの時期は、私たちが古典として受け取っているクラシック音楽や文学史上でいうとロマン主義が花開いた時代。『ハミルトン』はこうした時期と21世紀の現在をなんとも強引に結びつけてしまうわけです(ロマン主義的考え方が現在の私たちの感性をまだ縛っている、というのもある程度、真実だと思いますが・・・)。ちなみに、ベートーベン「運命」の初演が1808年、ハミルトンが死んだのはその4年前の1804年です。

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