2017年2月28日火曜日

"7. You'll Be Back" (from Hamilton: An American Musical)

さて、"7. You'll Be Back"。ある意味、『ハミルトン』で一番盛り上がる曲(笑いの面で)。ミュージカル全体が non-stopな息もつかせぬ展開なので、オーディエンスが一息ついて、拍手と歓声で大きな貢献ができるいちばんの場所はスピードダウンするジョージ王による3曲のところ。観客がいるエンターテインメントなので、こういう箇所がないとダメなんでしょうね。

ミランダやラカモアによると、1960年代のBritish Pop調。アメリカの大衆音楽を輸入したイギリスが、ビートルズやストーンズを筆頭にアメリカに押し寄せてきたことを アメリカのポピュラー音楽史では、the British Invasion(イギリスの侵略)といいますが、ジョージ3世の軍隊を送るという宣言にかかった一種のダジャレになっています。

全体を訳してみました(英語はGenius.comでどうぞ)。曲調はちょっと"All You Need Is Love"風ではありますが、内容は正反対。

 戻ってくるよ  You'll Be Back

[ジョージ王]
ぼくの愛は高くつく、だからもう代価を払うつもりはないっていうんだね
じぶんで海に投げ込んだお茶に涙を流すがいいよ、それを横目に過ぎるぼくを見ながら
どうしてそんなに悲しむの?
あらかじめルールを決めといたじゃない、きみがそっちに移るときに
きみがぼくを怒らせているんでしょ
遠距離っていってもさ、憶えておいてよね、ぼくがきみの彼氏だって

きみは戻ってくるよ
すぐに気づくよ
思い出すさ、きみはぼくのものだって
戻ってくるよ
時間がたてばね
いまに気づくさ、ぼくが優しくしてたってことに

大洋が盛りあがり、帝国は没落する
そんなこんなのあいだもいい関係だったでしょ
でね、小突き合いがどつき合いになったら
フル装備の兵隊をやまほど送りこんで、ぼくの愛を思い出してもらうからね

ダ~ダダダッダ~

二人の愛は干上がった、もう一緒はいやだっていうんだ
ぼくがいなくなって泣きべそかくのはそっちなのにさ

いやまだ、話を逸らしたりしないでよ
だって、きみはぼくのお気に入りの臣下なんだもの
ぼくの可愛くて従順な臣下
忠実な王家の臣下だもん
永遠に、そうずっとずーっと永遠にね

きみは戻ってくるよ
今までとおなじで
ぼくはがんがん戦って勝っちゃうよ
きみの愛を
きみの賞賛を勝ちとるのさ
で、死ぬまできみを愛しちゃうんだから

きみが去ってしまったら、ぼく、おかしくなっちゃうよ
だから今のぼくらの関係をポイしないでね
ま、小突き合いがどつき合いになったら
きみの友だちや家族を殺して、ぼくの愛を思い出してもらうね

ダ~ダダダッダ~

オリジナルキャストのジョナサン・グラフ(Jonathan Groff)の歌い方、踊り方がちょっとオネエ風なので、あまり行きすぎないように気をつけて訳してみました。(ちなみにグラフはディズニー映画『アナと雪の女王』のクリストフ役声優。ちなみにディズニーのミュージカル Frozen (アナ雪の原題)が2018年春からブロードウェイで上演される予定。)

最初の部分だけを聞いていると、一種のラブソング。まあ、ストーカー的な男が離れていこうとする恋人を脅す、ねじれたラブ・ソングですが、

[King George] And when push comes to shove, I will send a fully-armed battalion to remind you of my love.
[ジョージ王] フル装備の兵隊をやまほど送りこんで、ぼくの愛を思い出してもらうからね

のところで、ああ、そういうことかと分かって大きな笑いが起きる仕掛けですね。実際には軍隊を送ってたくさん人を殺す、ということなんで笑えないのですが、そういう背景に言葉遊びやパフォーマンスが合わさると、ふつうのジョークより笑えたりするというわけで。

言葉遊びとしては他にも、

[KING GEORGE] And, no, don't change the subject 'cause you're my favorite subject. My sweet, submissive subject. My loyal, royal subject, forever and ever and ever and ever and ever.
[ジョージ王] いやまだ、話を逸らしたりしないでよ。だって、きみはぼくのお気に入りの臣下なんだもの。ぼくの可愛くて従順な臣下、忠実な王家の臣下だもん。永遠に、そうずっとずーっと永遠にね。

という箇所で、"subject"が「話題」と「臣下」という二つの意味で使われています。『ハミルトン』でじゃこの仕掛けをくりかえし使っていて、ミランダの説明によると、ミュージカルの歌詞ではあまりないパターン、でもヒップホップではよくあるので活用してみた、ということです。

舞台上では、王はしなしなとした歩き方で、歌いだすとあまり動かない。他の登場人物たちがひっきりなしに動く作品なので目立ちます。(最初の衣装の王冠が相当重く、頭を動かすのもしんどかったので、このスタイルができた。そのあと最初の王冠が壊れて軽いものになって、ジョージ王役キャストはほっとしたらしい。グロフがあのビヨンセにも教えたというジョージ王の歩き方はこちら(1:10ぐらいから)。)視線や顔芸もウケている様子。

ジョージ3世、この時点ではまだかなり強気です(実際、当時のイギリスとアメリカの国力差・兵力差を考えると自然なのですが)。王の登場はあと二回―独立後の"21. What Comes Next" / ワシントン辞任後の"33. I Know Him"―あるので、この後、アメリカの独立が確定していくなかでどうなっていくかに注目です。もうまとめて聞きたい、という人はこちら

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