2017年2月11日土曜日

『ハミルトン Hamilton: An American Musical』紹介‐イントロ

ブロードウェイの大ヒットミュージカル 『ハミルトン:アン・アメリカン・ミュージカル Hamilton: An American Musical』(以降、『ハミルトン』)。

日本でも多少話題になっていますが、本国アメリカ合衆国での盛り上がりにくらべると、まだまだ紹介が少ない気がします。(先日YouTubeで、トニー賞授賞式のときのパフォーマンスに日本語字幕がついているのを見つけました。アップした人、Good job!)

『ハミルトン』 はリン‐マニュエル・ミランダ(Lin-Manuel Miranda)脚本・作詞作曲・演出によるミュージカルで、2015年1月からオフブロードウェイで上演、同年7月からはブロードウェイに。2016年度のトニー賞のミュージカル16部門中、11部門を獲得しています。

普通のミュージカルならこれだけの説明でも「すごいや」となりますが、『ハミルトン』人気のほんとうにすごいところは、ブロードウェイやミュージカルのファンだけではなく、また一つの世代だけではなく、アメリカの老若男女が熱狂しているところです。

20世紀後半からはアメリカでも日本でも、若者文化の台頭で、世代間の趣味の違いが顕著になり、誰でも楽しめる的なものはどうしても薄っぺらになりがちで、それがミュージカルの低迷にもつながっていたわけですが、それを意外な(ただし、起こってみると当然に思える)試みでくつがえしたのが『ハミルトン』なのです。

『ハミルトン』についてまず言われるのが、ヒップホップの使用。ミランダはミュージカルにも、ヒップホップにもほとんどオタク的な知識をもつ人で、日本人でもアメリカのヒップホップに少しでもなじんだ人は、「あ、これはあの~~の!」と盛り上がれる楽曲からの引用が使われています。それも、パクっている、という風にではなく、ヒップホップのミュージシャンたち本人が熱狂するような仕方で(有名アーティストによる『ハミルトン・ミックステープ Hamilton Mixtape』というスピンオフ企画CDも大ヒットしています)。

実際には、ひたすらヒップホップ、というわけではなく、R&Bやジャズ、ブリティッシュ・ポップなど、多彩なジャンルをシンプルだけど説得力のあるアレンジ(アレンジはアレックス・ラカモア(Alex Lacamore)で、ヒップホップはあまりピンとこないという層にもアピールするように作られています。が、全体のトーンを決めているのは、冒頭から多用されるラップ形式のリリックです。

もうひとつだけに限って特筆しておくべき点をあげると、メインキャストがマイノリティ、特にアフリカ系の人たちで演じられていることです。なんだ、今ならそれほど意外じゃないじゃないか、と思うかもしれませんが、『ハミルトン』は18世紀後半のアメリカ独立時に活躍した人々を描いた作品で、メインの登場人物は主人公アレグザンダー・ハミルトンを始め、ジョージ・ワシントン、トーマス・ジェファソンなど、「もちろん白人」の人物(しかも、そのうちには黒人奴隷所有者だった人物たちもいる)です。
[ 日本語記事では、主人公 Alexander Hamiltonのファースト・ネームは「アレクサンダー」と書かれていることが多いようですが、英語での発音は(『ハミルトン』での発音ももちろん)「アレグザンダー」です。]

驚くべきは、マイノリティ中心のキャストがすんなりと受け入れられ、多くの場合、ポジティブに評価されていることです。なんといっても、ブロードウェイ・ミュージカルはいまだに白人が中心のジャンルであるとみられ、かなりそれは当たっているので、マイノリティが主演キャストを占め、しかもアメリカ建国時の白人の英雄たちを演じるというのは、それだけで挑発的ともいってもいい選択なのです。

他にもあれこれと書きたくなるところですが、そうしてしまうと、とりあえずイントロダクションというこの記事の目的から外れてしまうので、このあたりでまとめ―

『ハミルトン』はミュージカルというジャンル自体を変えてしまうインパクトをもった作品と評価されており、さらには「トランプ現象」と双璧をなす社会現象でもある。このブログではしばらく、このミュージカルの各曲紹介と、『ハミルトン』に関するあれこれを様々な角度から眺めた記事を載せていこうと思います。

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