2017年2月26日日曜日

『ハミルトン』と1776年のニューヨーク

"5. The Schuyler Sisters"の冒頭で、バーが

[Burr] There's nothing rich folks love more than going downtown and slamming with the poor. They pull up in their carriages and gawk at the students in the common just to watch ‘em talk.
[バー] お金持ちがいちばん好きなのは、街中にくりだして貧乏人たちと一緒に騒ぐこと。馬車で乗りつけてはあんぐり口を開けて、「コモン」でおしゃべりする学生たちを眺めるのさ。

と言うところがありますが、この「コモン common」とは正確には何かなと気になります。アメリカの英語辞典 Merriam Websterによると、名詞としての"common"の語義の5番目にあるのがこれに当たりますね。

5:  a piece of land subject to common use: such as
a :  undivided land used especially for pasture
b :  a public open area in a municipality
<A food and jazz festival will be held at the town common.>

5b「自治体の公共に開かれた場所」、みなが集まって自由な活動ができる場所。ヨーロッパやアメリカの都市にはぽっかりと開けた広場があって、ニュースで大きなデモがあったときにはそうした場所に群衆が集まった映像が流れます。日本語だと「広場」と訳されますが、都市の構造が市民社会とリンクしたものとして認識しないとちょっとニュアンスがわかりません。

"5. The Schuyler Sisters"の舞台、1776年のニューヨークの「コモン」は、現在のシティ・ホール・パーク。マンハッタンの南端に近いブルックリンブリッジのたもと、ウォールストリートのあるロウワー・マンハッタンのダウンタウンの北にある公園。ニューヨーク市庁舎があります。もともとはオランダ人入植地時代から入植地の北のはずれにある場所を "commons"として共同の放牧場にしていたのが、街の発展とともに広場になった場所。1754年にはすぐ横にハミルトンが通った King's Collegeが建てられています。

面白いのは現在のコロンビア大の前身であるKing's Collegeは、その名の通り、イギリス国王、ジョージ3世("7. You'll Be Back")の祖父ジョージ2世の勅許を受けて設立された大学。イギリス国教会と近く、1776年でも王党派の牙城でした。ただし、そのすぐそばの「コモン」は『ハミルトン』が描くように、独立派も自由に発言でき、活発な議論が行われるような場だったようです(次の、"6. Farmer Refuted"参照)。自由のポール(liberty pole)が誇らしげにかかげられ(現在もレプリカが建っている)、市民主義・啓蒙主義の雰囲気があふれる場所だったようです。アメリカ独立の契機にもなった1765年の印紙法(The Stamp Act)に対するニューヨークのデモもここで行われています。詳しくは、こちら

King's Collegeは独立後、Columbia Collegeと改称。1896年にはColumbia Universityとなって、現在のモーニング・ハイツに移転しています。が、学章はいまだに王冠マークを使っていますね。

あと、「コモン」といえば、"5. The Schuyler Sister"にも言及があるトマス・ペイン『コモン・センス』(1776年に出版され、アメリカ植民地の世論を独立へと方向づけた重要文書)。それに、『ハミルトン』のトニー賞授賞式パフォーマンスの前に紹介役で出ていたラッパーの Common (元は Common Sense;動画では1:25ぐらいから登場)。ヒップホップ・アーティストの中でも随一の二枚目で知性派、俳優としても活躍しています。代表曲は、商業化していいくヒップホップを昔好きだった彼女に喩えた"I Used To Love H.E.R"。Hamilton Mixtapeにも参加していますね。

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