2017年2月11日土曜日

『ハミルトン Hamilton: An American Musical』:あらすじと全体構成

ミュージカル『ハミルトン』のあらすじをできるだけ簡単に言うと、

カリブ海の島に生まれたアレグザンダー・ハミルトンが独立直前のアメリカへと渡り、独立戦争時からジョージ・ワシントンの右腕として活躍、独立後もワシントン大統領のもとでアメリカの国家制度づくりに貢献する。一方で、妥協を知らない性格から政敵を多数つくってしまい、最後は合衆国第3代副大統領アーロン・バー(Aaron Burr)との決闘で命を落とす、

というものです。

もちろん、それ以外にもさまざまな要素、恋や友人や家族なども絡んでくるわけですが、基本的には史実に沿った歴史ものです。史実が何か、というのは常に問題になるわけですが、リン‐マニュエル・ミランダが明かしている通り、ミュージカル『ハミルトン』が描くハミルトンは、2004年に出版された Ron Chernow, Alexander Hamiltonという大冊の伝記にほぼ従っています。

Chernowは史実に関するアドヴァイザーという立場で、『ハミルトン』制作初期から直接企画に関わっています。英語圏の本屋に行くと、伝記ものコーナーというが小説コーナーと同じぐらいの棚を占めていて、伝記ものしか読まないという読者もいる。Chernowは独立時の伝記もので有名な伝記作家で、ミュージカル『ハミルトン』のずっと前から人気作家のようです。

「史実が何か、というのは常に問題になる」と書きましたが、Chernowの本はかなりハミルトン側から書かれているらしく、彼の本にも、『ハミルトン』にも、特に敵役で描かれるジェファソンやバーに関して批判はあるようです。ただし、全般的には、歴史家のあいだでも『ハミルトン』はかなり史実に忠実だと評価を受けています。(さらに、歴史の先生方にとっては、このミュージカルのおかげで生徒が歴史に興味をもってくれた!というのがあるらしく、まあ、文句は言いにくいですね、笑)。

ネット上にも検証記事があがっているので、history buff(歴史マニア)の人は調べてみてください。

ミュージカルの作劇上の構成では、ハミルトンのフレネミー(friend+enemy)で、最後に決闘でハミルトンを殺してしまうアーロン・バーが冒頭から語り手、いわゆる狂言回しの役で登場するのがポイントでしょうか。この選択が、劇としての『ハミルトン』の成功の大きな部分を占めているように思います。バーがポイント、ポイントで、場合によってはずっと後の時代の視点も織り交ぜながら進行を観客に伝えることで、テンポが速いこの作品を受け取りやすくしています。
(ちなみにこのバーがハミルトンを殺す、というのはアメリカ人なら必ず知っている史実らしく、ネタばれにはなりません。『ハミルトン』でも冒頭の "Alexander Hamilton"で明かされますし・・・。)

べつの重要なポイントはこれが、"sung-through"ミュージカルだということでしょう。つまり、(基本的に)歌だけをつなげて作品が構成されている。ミュージカルでは、劇の部分と歌の部分の割合が作品よってさまざまですが、登場人物が会話する場面というのがあるのが普通です。ただし、『ハミルトン』や『ジーザス・クライスト・スーパースター』といった作品では歌だけをつないで、あらすじも分かるように構成されている。

これはなかなか劇場へ行けない(あるいは私のような「行かない」)観客にとってはまことにありがたい。何故かというと、オリジナル・キャスト・アルバムとかを聞けば、全体の話が分かるからです。"sung-through"でない作品だとアルバムを買っても、曲と曲のあいだで何が起こったのか分からない、つまり、舞台を観てからでないと十分に楽しめないわけです。

『ハミルトン』のヒットの要因はこのあたりにもあるでしょう。アメリカ人でもほとんどの人はNYのブロードウェイまで行くのは難しいし、チケットも馬鹿高い。ネット上で『ハミルトン』をネタに盛り上がっている人たちの多くは、OBC(オリジナル・ブロードウェイ・キャストの略)アルバムと、ネット上の情報で楽しんでいるわけです。それでも、十分楽しめる、というのがミソ。

実際には、『ハミルトン』にはOBCアルバムには収録されていない場面があって、また舞台でみないとわからない点も多数あるわけですが、そのあたりは、Hamiltomeとファンのあいだでは呼ばれている馬鹿でかい本 Hamilton: The Revolution (各曲の歌詞と製作エピソードを書いたエッセイを収録)を読んだり、ファンが作っているpodcastsを聞いたりして補っていく。そうした要素を残しているのもうまいところですね。

このブログでも、どのぐらい「ネタばれ」をしてよいのか、悩みどころです。何も知らないでみたい、アルバムを自分で聞きたい、という人は、このブログは見ないほうがいいかもしれません、とアラートしておきます・・・。

構成についてもまだ書くことは多いですが、各曲の紹介に回したいと思います。

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