2017年2月26日日曜日

"6. Farmer Refuted" (from Hamilton: An American Musical)

"5. The Schuyler Sisters"までで登場人物紹介、基本的な方向性の設定は終わり。次の"6. Farmer Rufuted"は一見軽めに見えて、戦争に向かっていく雰囲気を示した内容としては重い箇所と言えそうです。『ハミルトン』の中でいちばん人気がない曲、という意見も聞いたことがありますが・・・。

あらすじ:
「コモン」で独立反対の演説をする王党派の主教(bishop)、サミュエル・シーブリ。そこへ、マリガンたちにせっつかれたハミルトンが、バーの制止をふりきって邪魔に入る。

実際には1774年から1775年にかけて文書で行われた論争を、街頭演説の場面に仕立てている("Farmer Refuted"はシーブリの意見に対してハミルトンが書いた論駁文のタイトル)。チェンバロ(風)の音を背景に滑らかに歌うシーブリの歌詞のところどころの単語にひっかけるかたちでハミルトンがラップをはじめ、最後には全体を乗っ取ってしまいます。

作品全体にとって重要なのは、"2. Aaron Burr, Sir"、"3. My Shot"に引き続いて、あくまで慎重派のバー/周りに乗せられるのもあって前に前に出てしまうハミルトン、という対比がくりかえしで示されている点。

[SEABURY] Heed not the rabble who scream revolution; They have not your interest at heart.
[MULLIGAN] Oh my god. Tear this dude apart.
[SEABURY] Chaos and bloodshed are not a solution. Don’t let them lead you astray. This congress does not speak for me.
[BURR] Let him be.
[シーブリ] 革命を叫ぶ連中に耳を傾けてはなりませんぞ。連中はあなた方の利害なんて本気で考えてません。
[マリガン] なんてこった。こいつ、ギタギタにしちまおうぜ。
[シーブリ] カオスや流血は解決にはつながりません。あやつらの言葉に迷わないようにしましょう。この会議(=各州の代表が集まって独立を議論していた大陸会議)の意見は私の意にはかないません。
[バー] 放っといてやれよ。

ここでマリガンとバーはハミルトンに話しかけていています。つまり、マリガン(とローレンズ、ラファイエット)はハミルトンをけしかけていて、バーはそれを制止している。

この後、先に書いたように、オーディエンスに冷静に語りかけようとするシーブリ(クラシカルなメロディで歌う)に対して、彼が使うのと同じ言葉を自分のライムにとりこみながらハミルトンがラップで割り込んでいく。舞台上では二人の演台をめぐってのつばぜり合いがくり広げられます。その様子はシリアスではなく、どちらかというとコミカルな感じ。ハミルトンの言葉も、シーブリについての個人攻撃めいたものになっていって、まともな議論という感じにはなりません。そこに、たまりかねた様子で割り込んでくるバー。

[BURR] Alexander, please! 
[HAMILTON] Burr, I’d rather be divisive than indecisive. Drop the niceties.
[バー] アレグザンダー、頼むからさ!
[ハミルトン] バー、俺はうやむやにするぐらいなら敵を作るほうがいいんだ。お行儀なんて捨てちまえ。

ここでも、"2. Aaron Burr, Sir"からつづいている、ハミルトンとバーの態度の違いがふたたびとりあげられていますね。

直後、「王からのメッセージである A message from the king」の声とともに兵士たちが登場、ハミルトンらは慌てて姿を消す。その様子を見ると、この時点での彼らが決して多数派でないことがわかります(バーのほうが状況を考えれば普通で、冷静ではありますね)。この歌は次の、ある意味では『ハミルトン』の中でいちばん盛り上がる(とくに笑いの面で)曲への前置きといったところでしょうか。

今でもアメリカやオーストラリアに行くと、公園や広場の小さい演台に立って演説をしている普通の市民の姿を見かけることがあります。聞いている人と論争になったりして・・・。普通の生活の場に政治的議論がある、というのが政治的な成熟だろうかな、と。

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