全曲からの続き。決心を固めたアーロン・バーが一気に前面へ。
<あらすじ>
決断をすると行動の早いバー。フェデラリスト党から共和民主党に乗り換えて、見事に上院議員に当選。代わりに落選したのがハミルトンの義父のフィリップ・スカイラー。ハミルトンはこれを裏切り行為としてバーを批判して激しく詰めよる……、
始めは、上段通路の右端に立った孫フィリップとイライザがスカイラー落選、バー当選の新聞記事を読むシーンから。"5. The Schuyler Sisters" のリプリーズへ移行し、そこからハミルトンとバーの口論の場面へ。
[HAMILTON] Burr? Since when are you a Democratic-Republican?
[BURR] Since being one put me on the up and up again.
[ハミルトン] バー? いつから民主共和党員になったんだ?
[バー] そうすりゃどんどん上に行けるってわかってからだね。
"Burr, sir" を聞きなれてきた耳からすると、"Burr" だけの呼びかけは失礼、というか、ハミルトンの激昂ぶりが見えるような気がしますね。ハミルトンの非難にバーは平然と答える。この時期のアメリカ合衆国政局は、<ハミルトン、アダムズらの the Federalist Party >対<ジェファーソン、マディソンらの the Anti-Federalist Party 改め the Democratic-Republican Party >の図式。各政党、というか、各個人が新聞を発行して、いちおうは匿名で(でも誰が記事を書いたかは丸わかりという状態で)批判合戦、というよりむしろ、罵り合いの泥仕合を繰り広げていました。後で出てくるように、党内部でも泥仕合なんですけど。
この後、さらに責め続けるハミルトンに対して、「ウォールストリートじゃ人気ものかもしれんが、[…]州の北部じゃ、お前みんなに悪党だって思われてるからな」(”Oh, Wall Street thinks you’re great.[...] But upstate [...] people think you’re crooked.")とバーの切り替えし。
[HAMILTON] I’ve always considered you a friend
[BURR] I don’t see why that has to end
[ハミルトン] ずっと友達だと思ってきたのに。
[バー] これからも友達でいいんじゃない。
この部分、OBCアルバムで聞くと、バーが平然と受け流しているように聞こえますが、あるところでみた映像では、バー役レズリー・オゥドム・ジュニアはハミルトンの勢いに戸惑っているように演じていました。私が見た舞台のブランドンは、平然に、のほうの演技でした。同じ設定、セリフでも演じ方によって微妙な揺れがあるようで。
最後のバーのセリフ、
[BURR] I swear your pride will be the death of us all. Beware, it goeth before the fall.
[バー] 言っとくがな、お前の傲慢さが俺たちみんなの命取りになるぞ。気をつけろよ、傲慢は没落の先駆け、だぜ。
は、旧約聖書の箴言(Proverbs)16章18節、
Pride goeth before destruction, and an haughty spirit before a fall. (King James Bible)
より(訳はネットで何種類も見つかるので、いろいろ見比べてみてください)。箴言は古代ユダヤ人のことわざを集めたもの。日本人だと、こうした部分が聖書にあるというのも知らない人のほうが多いでしょうね。ただこの時代のアメリカ人なら、聞いて出典がわからなければ馬鹿にされるレベルでしょう。今はどうかわかりませんが。
また「傲慢さが俺たちみんなの命取りに」というのは、もちろん、この二人の未来を予言している。ミュージカル『ハミルトン』全体、特にバーの発言にこうした部分がたくさん見受けられます。それに気付くたびに、オーディエンスとしては作品の結末に近づいていくのを実感するわけです。
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