ブルックリンのハーレム河沿いを走って着いたのは、1520 Sedgwick Ave。なんてことはないアパートに見えるんですけども、というか、本当になんてことはないアパートで、ちょうど出てきていた住民の人にちょっと胡散臭そうに見られたりするんですけども……。
ヒップホップの歴史にとっては最重要の場所です。時は1973年8月11日、DJ Kool Hercが初めてパーティーを開いた場所――すなわち、「ヒップホップ生誕の地」(アメリカ史における「コモン」や Federal Hall のようなものですね)。今では通りの名前が何と、ヒップホップ大通り(Hip Hop Boulevard)に。Google Mapで調べるとこの場所には、Hip Hop Nuestra Culturaと表記がありますね。
鉄柵の向こうにグラフィティが見えます。いや、その他はほんとに普通の静かなアパートで、写真の鉄柵の向こうでも住人の女の子、男の子がバスケットボールで遊んでいたりしていたんだけれども。何というか、こういうツアーじゃないと来ることはないし、来てもどうするの、という感じのところなので、逆に貴重な体験な気がします。
ガイドMCの Grandmaster Caz によると、DJ Kool Herc のパーティーは本当に爆音で、かなり離れた Caz の家にまで音楽が響き渡ってきたらしい。それを聞いて Caz たちもやってきたけど、まだティーンにもなってなかったので入れてもらえなかった、でも外にも山ほど人が集まって楽しんでいた、とのこと。
Grandmaster Caz は引っ越してきたばかりで地元でいちばんクールに見えたグループに入れてもらおうとしたら B-Boy のダンス・クルー Casanova Crew で、ダンスバトルに勝って入れてもらった(Grandmaster Caz の Caz は Casanova の略です)。その後、たまたま家にレコードがたくさんあったので Herc や Grandmaster Flash を真似て、DJing、さらにMCing を始めていくことに(ダンスは途中で諦めたそうで)。その際、お母さんがそれまで映画の影響で「ポン引き pimp」になりたいと言っていた息子が新しい道を見つけたことに喜んで温かくサポートしてくれた、という心温まる(?)お話。そのおかげもあって、1978年には The Cold Crush Brothersを結成、ダンスも盛り込んだヒップホップ・ショウのスタイルを作り上げ、ヒップホップ史に名を刻むことになりました(ツアーでもかけていたけど、2Pac や Jay-Z の曲にもリスペクトで名前が登場します)。"Grandmaster" は初期のDJが付けていた称号ですが、Grandmaster Cazの場合はMCもこなす、というかそちらが本業っぽい。ヒップホップ史において、焦点がDJからMCに移行していくことを示す重要人物とみることもできるか。
次に降りた場所はBronxを貫く大通り、Grand Concourse。通り沿いの塀にしっかりとしたタッチでDJ Kool Hercを描いた壁画が。さすが Herc、腕の筋肉がすげえ。レコードを回すのにこんなに筋肉が必要かどうかは疑問ですけど。
壁画はかなりながく続いています。
Ground Concourse 沿いの風景。"Live Poultry"、生きたニワトリとかを売っているらしい。アフリカ系の人たちはとにかくチキンが好き、というのは映画やドラマで出てくるステレオタイプの一つ。たぶん、本当に好きなんでしょう。
Ground Concourse には The Bronx Walk of Fameというのもあって、街灯のポストにブロンクス出身のヒーローたちの名前が書かれたサインが掲げられています。下の写真、右が Grandmaster Caz のサイン。
この場所にガイドなしで行きたいというチャレンジャーのために、近くのバス停の写真を乗せておきます。本数は少なくなさそうなので、そんなに大変ではないか。
ふたたびバス移動。かっこいいグラフィティ発見。
橋を渡りマンハッタン、ハーレムへ戻って、ソウル・フード・レストラン Manna's Soul Food。ここで昼食です。数えきれないほど並んだ料理からどんどん容器にもって、最後はざっくりとポンド測り売りです。たっぷりとって10ドル少々。ニューヨークの料理屋としてはかなりリーズナブル、で、とにかくどの料理もすごく旨い。すぐに行ける場所にあるなら、アメリカ滞在中はずっとここでもいいかなってぐらい。ハーレムに4軒ほどあるので、見かけたらぜひ入ってみてください。
店の中にもうけられた販売ブースでCD、書籍販売。HUSH Tour のライブCDというのを買いましたが、帰ってから聞いていると、このツアーが旅程を辿りながら、うまくヒップホップ史のルーツへと導入していくようにできているのが分かって感心しました。ツアーではMCを聞いて、外の風景を見て、と余裕がなかったですからね。CD買ってよかった。ツアー参加者は復習用にぜひ。最後のバス乗車前に、店の前で Grandmaster Caz と記念撮影。私もミーハーにちゃんと撮ってきましたが、恥ずかしいので割愛。
最後、バスに乗って、出発点の近くまで戻ります。Grandmaster Cazはここでバイバイ。その途中もお楽しみというか、サプライズがあります。司会は最初から添乗、動画ディスプレイ操作などをしてくれていた若いラッパー、Grandmaster Caz が mentor、日本語でいえばお師匠とのこと。ニューヨークでは様々なショウに出ている、名前を知られたパフォーマーのようです。すみません、そう書いていながら名前を失念。
朝10時からのツアーでしたが、終わったのは3時過ぎ。内容みっちりのよく構成されたツアーで、大満足でした。Grandmaster Caz を始め、関係者の本気度もよかった。ヒップホップが始まった当初はみんな持ち出しで活動をしていた、現在は恵まれている、と言っていましたが、それにしても、その頃から40年以上現役というのはすげーわー。
0 件のコメント:
コメントを投稿