<あらすじ>
フランスとイギリスの戦争が始まりそうな気配となり、独立時の同盟を守ってフランスを支援すべきかどうかが内閣会議の議題に。自由という理念をともに頂くフランスを支えるため参戦すべきだと訴えるジェファソンに対して、ハミルトンは国の現状は戦争できる状態ではなく、同盟条約もフランス王政時代のものでフランス革命政府とは無関係であることを指摘して中立を守ることを主張。ワシントン大統領はハミルトンの見解を支持して、中立の宣言を出すことに決定する。
ナンバー1と同様、ワシントンの司会から。ただし、今回の閣議はワシントン大統領が決定権を握っており、議会の承認は必要なし、とのこと(とすれば、どちらかというとハミルトンに近いワシントンの意見はもう決まってるんじゃないの、という気もしますが……)。
[Jefferson] When we were on death’s door, when we were needy, we made a promise, we signed a treaty. We needed money and guns and half a chance. Who provided those funds? ([Madison] France) In return, they didn’t ask for land. Only a promise that we’d lend a hand. And stand with them if they fought against oppressors. And revolution is messy but now is the time to stand. Stand with our brothers as they fight against tyranny. I know that Alexander Hamilton is here and he would rather not have this debate. I’ll remind you that he is not Secretary of State. He knows nothing of loyalty. Smells like new money, dresses like fake royalty. Desperate to rise above his station. Everything he does betrays the ideals of our nation. Hey, and if ya don’t know, now ya know, Mr. President.
[ジェファソン] 俺たちが死の扉の前に立って、助けが欲しくて喘いでる時、約束をして、条約にサインをしたわけよ。金と銃とチャンスを半分おくれってね。その資金を出してくれたのは誰だっけ? ([マディソン] フランスね。)お返しに、土地をくれなんてフランスは言わなかったよ。困ったときに助けてくれればいい。抑圧者に対して戦うときはよろしくってね。革命はしっちゃかめっちゃかでも、立ちあがるんなら今でしょ。兄弟たちとともに立って、暴政と戦うならね。アレグザンダー・ハミルトンがここに居るのは知ってるよ、でもこの議論には参加したらないだろうね。頭に置いておいてもらいたいんだけど、あいつは国務長官じゃないから。仲間に誠意を、なんて頭にない野郎さ。成金趣味ぷんぷんで、偽王族のファッション。何とか下層から這い上がろうってんだろうな。やつのやることなすこと、この国の理想への裏切りだ。ヘイ、知らなかったとしても、もう分かったでしょ、大統領閣下。
最後のラインは "Cabinet Battle #1" で出てきた Grandmaster Flash and the Furious Five の "The Message" と同じぐらい分かりやすいヒップホップ・ライムからの引用ですね。これもヒップホップ史上に輝く名曲、The Notorious B.I.G.の代表曲 "Juicy" 。原曲では、"And if you don't know, now you know, nigga"。ジェファソン役のディグズもこの名ラインを数えきれないほど口にしてきたようで、『ハミルトン』の始めの頃には、最後、"Mr. President"ではない原曲の言葉を言ってしまいそうで困ったとのこと。
"Juicy"は柔らかいトラックの曲だからただ聞き流しても気持ちがいい。が、内容的にはヒップホップ史を最初期から振り返りながら、Biggy が自分がヒップホップの正統なんだよ、分かったかよ、と、余裕とスワガーを強烈に効かせながら宣言する曲。ジェファソンが自分がアメリカ合衆国の理念の正統だ、とアピールしているのと対応していて、アメリカ合衆国史とヒップホップ史を重ねているところがある『ハミルトン』においては、非常に意味の深い選択です。
さて、この余裕のアピールに対して、ハミルトンはどう対抗するか。
[Hamilton] You must be out of your Goddamn mind if you think the President is gonna bring the nation to the brink of meddling in the middle of a military mess, a game of chess, where France is Queen and Kingless. We signed a treaty with a King whose head is now in a basket. Would you like to take it out and ask it? “Should we honor our treaty, King Louis’ head?” “Uh… do whatever you want, I’m super dead.”
[ハミルトン] どたまが湧いてんじゃないの、大統領が軍事チェスの泥仕合のどまんなか寸前までこの国を引きづっていこうとするなんて本気で思ってるならね、チェスって言ってもフランスにはクイーンもキングもないじゃない。俺たちが条約を結んだのは王だけど、その頭はいま籠のなかに収まってるよね。頭を取り出してきて訊いてみるつもり?「ルイ16世の頭様、条約を尊重してほうがよさそうですかね?」「あー、お前たちの好きにするがよい、朕は超絶死んでいるゆえ」
最初から文が長くて、訳しているほうとしては勘弁してくれ、と言いたくなるところですが(笑)、韻の連発がもの凄いです。しかし、"meddling in the middle of a military mess, a game of chess”あたり、唱えていると気持ちがいいです。フリースタイル・ラッパーでもあるリン‐マヌエル・ミランダが限界まで本領を発揮した感じ。というわけで2度目のラップバトルもハミルトンの圧勝。とはいえ、ワシントン大統領の見解は始まる前に決まっていて、とりあえず反論の機会をジェファソンにも与えよう、という雰囲気。それにガンガン攻めるハミルトンの頭に、前曲の最後でバーが言い放った「傲慢は没落の先駆け」が、ちょっとでもチラついたかどうか。強力な政敵ジェファソンとの関係をさらにこじらせていきます。
ジェファソンもそうとう気を悪くしたらしく、ハミルトンがかつての盟友でフランス革命に参加したラファイエットを見殺しにしていると非難。それに対して、ハミルトンは、
[ハミルトン] ラファイエットは頭が切れるやつだから、大丈夫さ。あんたが友達になる前から、俺の友達だったんだ。もし世界中の革命ぜんぶに首を突っ込んでいたら、どこで止めにするんだい? 線引きはどこでする?
と返す。この辺りは、デモクラシーという「理念」を旗印に世界中に望まれもしない介入を繰り返すことになった後のアメリカ合衆国史を思い起こさせます。本当のアメリカ合衆国史では、世界中に介入できるような連邦軍創設を進めようとしたのは、ハミルトンのほうではあるのですが。
最後、ラップ以外の口げんかでも旗色が悪くなったジェファソンが、
[Jefferson] You’re nothing without Washington behind you
[ジェファソン] ワシントンの後ろ盾がなければお前なんて屁でもないぞ。
と捨てぜりふ。さらに、舞台袖にワシントンいる呼ばれたハミルトンに対して、
[Jefferson] Daddy’s calling!
[ジェファソン] 父ちゃんが呼んでるぜ!
と追い打ち。前("14. Stay Alive")に、ワシントンに「息子」(son)と呼ばれて激昂していた家族コンプレックスのハミルトンにとって痛いところをついていますね。
"Cabinet Battle #1" では、Naz v. Jay-Z のビーフに言及しましたが、こちらナンバー2
は Eminem v. Jay-Z のビーフではないんですけど、ラップ合戦を思い起こさせます。Jay-Z のアルバム The Blueprint (2001)に参加した Eminem は "Renegade" で圧倒的パフォーマンスを見せています。Jay-Zも悪くないというか良し、曲自体も名作だと思うのですが、先攻第1ヴァース担当の Jay-Z を引き継いだ後攻の第2ヴァースの Eminem が全部もっていってしまう感じ(とくに、こちらのライブ)。もっとも曲調、全体のテーマ自体が Eminem 調に寄っていて、こうした曲で Eminem をフィーチャーしたJay-Zのふところが深い、という見方もできます、アメリカ史で結局勝利を収めたジェファソンのように。
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