2017年9月17日日曜日

ミュージカル観劇記(4):『ハミルトン』パート1

というわけで、とういうか、何というか。観てきました『ハミルトン』!  8月24日、7:00PMから、ブロードウェイ Richard Rogers Theatre での上演。念願の、なのですけれども、こう何回もアルバムを聴いて、あれこれ動画も見て、情報も知って、だと、逆に楽しめるかどうか時間が近づくにつれてだんだん心配に……。

とりあえず遅刻しないように、早めに劇場へ。劇場向かいにハミルトンショップがある。Tシャツ$40。デザインがあまり気に入らないので買わない(Groundhog Day Tシャツを買っちゃったし…)。ペーパークラフトの舞台モデルがあって参考になるかなと思ったが、いまいちの出来だなあ。$18、もっと安ければ買うかもしれないけど。


開演40分前、すでにかなり長い列ができている。どちらかというと年配の人が多いかな。聞いていたとおり、白人がほとんど。劇場入場、列が進みだすとあっという間に中へ。荷物チェックの手際がよく、販売ブースやバーも二つずつあって効率よし。NY公演パンフレットをのぞく。写真がほとんど。きれいだけど、迷うなあ。まあ観たあとで考えよ。


劇場としても前に行った二つの劇場より格上、というか儲かっている印象。前に行った劇場では左右のバルコニー席は使っていませんでしたが、ここはきっちりお客が座っています。横のバルコニーというと、大統領が暗殺されるところ、という印象しかないんですけど(笑)。自分が座る図は想像できない。

席は一階席の一番後ろ。買ったときに Limited View とあったのでどこが limited なのかを見ると、二階席が上にかぶさっていて、舞台奥上の通路の上あたりが切れている。照明があって見えにくいところも(あのあたりでアンジェリカか誰が歌うんじゃなかったっけ?)。首を傾ければ見えなくはないけど。右には柱。邪魔にはならないが、ちょっと狭く感じてしまう(途中気付いたが、後ろに立ち見の客が立っていた。あの人たちの料金はいくらだったのだろう)。左に初老のカップルが座る。まあ、ひどくはない席ですかねえ、などとちょっと話す。けっこう家族連れが多いぞ、金もってるなあとか不純な思考。


ステージはGroundhog DayThe Great Cometと比べて奥行きがあるように見えたが、座席が上のほうだったからかもしれない(ていうか、前二作品の席はかなりよかったのだ。それに比べるとステージが遠い…)。ステージ上、天井から右手前に向けて2本の綱がゆったりと張られているのが気になる(1曲目ですぐに取り外されていた。ハミルトン、劇の船出を象徴していたのかな?)。

意外とあっさりと、という印象で、第1幕始まり。バーを始めに、登場人物たちがステージに登場。わかっていたことだけど、舞台上にほぼ全キャストがそろうと、かなり目移りする。どれがどのキャラクターか、焦点を合わせるのが難しい。オリジナル・ブロードウェイ・キャストを映像で見慣れているので、違和感の調整にしばらくかかりそう。

劇場で観ていると、アルバムで聴いているのとはグッとくる曲がちょっとずつズレている。"2. Aaron Burr, Sir" ~ "3. My Shot" でドカンとくるかなあと思ったら、それほどでもなかったです。"5. The Schuyler Sisters" あたりまでは登場人物紹介という印象。"6. Farmer Refuted"からようやく物語の展開に乗っていく感じ。

印象に残った箇所は、"7. You'll Be Back" から "8. Right Hand Man"。ジョージ王の3曲は作品全体にとって重要であることを再確認。主人公たちの時空間とは違った視点から、劇を立体的にしている。上演をみると、曲の中、曲と曲のつながりの構造が別物に感じられる。"7. You'll Be Back"、笑いは多め。だが、ポイントは曲が終わってから。ジョージ王がゆっくりと奥へと退場していく、そのとき、左手でアメリカ人のスパイのやりとりがあり、イギリス兵がアメリカ人スパイの首を後ろから掻き切る黙劇、大きな和音。それと同時に、杖を客席のほうに向けながら、ちらりと冷たい視線を観客に向けるジョージ王。笑いから、ひんやりとした感触に一気に雰囲気が変わる。印象的でした。ジョージ王の歌は、アメリカ人(植民地人)へ向けた脅し、なわけで、客席に座るほとんどアメリカ人に語っている、というのが演出としてはっきりしていました。

そのひんやりとした感触のまますぐに、ハウ提督の艦隊がNYに到来する、“Right Hand Man” 冒頭へ。この曲がアルバムの印象に比べてよく感じられた曲としては一番でした。ワシントン役、Bryan Terrell Clarkがよかった! ワシントン登場、舞台真ん中奥上の通路から、いつの間にか移動していた階段を下りてくる。この舞台真ん中の階段は、ガラッと雰囲気が変わるような決定的な登場場面のみで使用されているみたい。曲の最後、先にこの真ん中階段のうえに上っていたワシントンに、駆けあがったハミルトンが合流して締め。ここから本格的な物語のスタートという印象で、第1幕でいちばん重要な曲に思えたのでした。

ええと、一曲ずつ書いたのではきりがないので……。全体として、劇場なので当たり前ですが、曲アレンジの重層性がよく伝わってきました。アルバムではセンチメンタルだな、という曲も、劇場のほうがよく聞こえる。演出も、照明の当たらないところ、アルバムを聴いただけではわからないところで、いろいろ起こっている。焦点の当たる人物の切り替わりが激しく、舞台への出入りも激しいので、さっき前で歌っていた人物が上の通路にいたりします。注目をどこかに集めて、それ以外の要素を気付かないように移す、ということでちょっと手品みたい。人物の動きというのも、パターンがありそうです。奥上の通路は、上るのはだいたい右側。左側の通路は下り。全体的に、舞台全体時計回りな気がしたのですが。ダンサーの動きも含めて円を描いている、そこをメインキャラクターが横切る、という具合。下はintermission時の様子ですが、照明で床に模様を描いています。いろいろな模様がありましたが、これも円、円運動が多かったような。


”15. Ten Duel Commandment” は、中央のターンテーブルを駆使したこの円による演出がかなり複雑なはず。なのに、全体としてはシンプルにまとまって見える見事なパフォーマンスでした。この曲に関しては、チャールズ・リー役がよかった。なんというか、白人ですが、他のキャラクターよりヒップホップ的なラップ、ちゃんと笑いもとっていましたし。登場人物としてはチョイ役ですが、貢献大と感じました。ヒップホップを前面出したこの曲と、”Cabinet Battle” 2曲はよかったですねー。なんというか、リプレイで何度でも見ていたい。もっと同様の曲を、と思わないではないですが、こういうのは腹八分目でちょうどよいかも、とも思ったり。

“18. Guns & Ships” ~ "20. Yorktown (The World Turned Upside Down)"の第1幕クライマックスはよかったですが、ある意味、予想通りではある。ラファイエット役はJames Monroe Iglehart。どうかなと思っていましたが、特に後半のジェファソン役になると華やかさのある人なのでよかったです。ちゃんとテーブルからジャンプしていたし(笑)。ただし、ラップになるとちょっとアタック感、ビート感が少なめ。これはオリジナル・キャストに比べて全体に言える気がしました。演劇、演技としては今回見たヴァージョンのほうが練り上げられて丁寧に、メリハリがある、ただし、その分、ブロードウェイ・ミュージカルとしてこなれてしまって、ヒップホップを打ち出した音楽性の新しさはちょっと控えめになっているのではないかな、と感じました。みんな上手いんですが、ラッパーじゃなくて役者だよね、という...。その点でいくと、マリガン役の J. Quinton Johnson のラップは、"2. Aaron Burr, Sir" からちゃんとヒップホップしていた気がします。ヒップホップ感では、今回の上演では、マリガンとチャールズ・リー。

曲間の取り方や、曲の中での緩急も、ライブでしか味わえないところ。シークレット・ソングの “Tomorrow There’ll be More of Us” ~ "23. Non-Stop"のトーン、スピードの急転は圧巻。 “Tomorrow There’ll be More of Us”は私としては『ハミルトン』でいちばん泣けるところなんですが、しんみりとした曲調からほぼ間がなく、躁的な "23. Non-Stop"の超高速に切り替わります。そこから第1幕締めまで、笑いも挟みながらのまさにノンストップ。

残念だったのは静かな曲でいまいち集中できなかったところ。 "13. Wait For It"、"21. Dear Theodosia"、両方好きな曲なんですけども。前の女性がやたらと首を右左に動かす人で、それが気になったりしていたら……。にぎやかな曲でも、欲張って色々みようとして、逆に他の部分を見逃したりして……。これもまあ、劇場体験の一部ですけどね。

パフォーマンスの質としては、不満なし。オリジナル・キャストよりうまいと言えるんじゃない、というか、上演を重ねて、作品として無理なく完成しているというか。オリジナル・キャストの残したものを大切に受け継いでいることが伝わってきます。ここまで書いていませんでしたが、主人公ハミルトン役、Javier Muñoz のラップはミランダそのものに聞こえるところも。歌や演技はミランダよりうまい。劇全体としていいか、というのは役者個人の個性の問題もあってまた別ですけど。

残りの感想はまた次に~。

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