8月にミュージカルを続けてみた記録を残しています。が、さて、ブロードウェイ観劇は夜。ということで、昼は何をしようかとなるわけですが……。ここは『ハミルトン』メインのNY滞在、関連の活動を、ということで、Hamilton Walking Tourに参加してきました。Viatorというサイトで予約。最近は何でもネットで便利ですね。
スタート地点は City Hall Park。『ハミルトン』で行くと、"5. The Schuyler Sisters" や "6. Farmer Refuted" で登場する「コモン」が当時の「シティ」(というより、規模からいって「タウン」か?)のいちばん北に当たるこの場所になります。オランダ植民地だったニューアムステルダム時代に、共有の牧草地だった地域が公共空間としての性質を残して公園となった。革命派も王党派も、ここで自分たちの主張を述べ、議論を戦わせた場所。
現在ではニューヨーク市庁舎が建っています(市庁舎も軽く覗こうかと思ったら、厳重警戒でした。現在の状況を考えればそりゃそうか)。15分前に公園のブロードウェイ側入口に行くと、いろいろ装備をつけた初老の男性が。バードウォッチング風に見えなくもないですが、『ハミルトン』関連の資料が見えたので声をかけるとそれが今回のガイドのチャズさん。地元の歴史好きおじさんという感じ。しばらくして、女性二人がやってくる。ボストンから旅行、ということでしたが、うちの一人はもう『ハミルトン』オタク全開。結局、ツアーは最少人数の3人でした。『ハミルトン』ブームもさすがに落ち着いてきたのか、それとも他にもいろいろツアーがあって、客が分散しているからか。ツアーはヘッドフォン装着で、『ハミルトン』からの曲も交えながら進んでいきます。ヘッドフォンは騒々しい街中だから、というのが主な理由のようでしたが、いい工夫だと思いました。
まずはスタート地点のCity Hall Park =「コモン」の説明から。このブログでは、下の記事にすでに説明を書いていますので、ご覧ください。
『ハミルトン』と1776年のニューヨーク
すでに色々調べたとはいえ、実際の場所にいくとちょっとワクワク。下の「リバティ・ポール」はハーキュリーズ・マリガンら "Sons of Liberty" のメンバーたちが立てた「自由のポール」(もちろん復元ですが)。
根元をみると、鉄のガードがつけてある。独立派がポールを建てるとイギリス兵が切り倒す、というのが10年も繰り返されたそうで(今からすると逆にのどかな話ですね)、最後は切られないようにガードをつけたとのこと。現在のものは1921年の復元版で、当初の位置とは違う場所にあります。
次いで、City Hall Park 周辺で、ハミルトンの葬列が始まった地点、この場所ではないけど "2. Aaron Burr, Sir" の舞台となっていると思われる tavern などの説明を受ける。当時のニューヨークの人たちにハミルトンは広く敬愛されていて、多数の参列者のパレードが大規模に行われた。ハミルトンが "3. My Shot" で "I got a scholarship to King's College" と歌ったキングズ・カレッジ(後身が現在のコロンビア大学)があったのもこの辺り。
次いで、ハミルトン関連の教会へ。今回のツアーでは3つ教会を尋ねましたが、当時の、そして現在のアメリカにおけるキリスト教の重要度が分かるような。始めは St. Paul's Chapel of Trinity Church Wall Street。名前からそうかなあと思いますが、アメリカ一番リッチな教会だそうな。「金もちが天国に入るのはラクダが針の穴を通るより難しい」とキリスト様はおっしゃってなかったかとも思うんですが(笑)。後で訪ねるハミルトンのお墓がある Trinity Churchと系列(企業みたいに言うな!)ですね。
確かにプロテスタント系の教会としてはちょっとリッチな感じの内装。プロテスタント系ではふつうあの窓のところにものを置いたりしないけど、外にある何かの影が悪魔みたいに見える、という声があってそれを隠すためにおいてあるということ。外のその何かを動かすという発想にはならないのか?
壁に掲げられていたワシントンの100回忌のときの記念銅板。
この教会は9・11の時に救助活動の拠点になったらしく、記念品を収めた小部屋がありました。
白頭鷲をデザインしたアメリカ合衆国の国章の絵。なんだか、国家の教会という感じ。ベンジャミン・フランクリンが白頭鷲よりも七面鳥のほうが合衆国国章にふさわしんじゃないの、と言ったという伝説がありますが、ここに描かれた白頭鷲は七面鳥に似ています。ミュージカル『1776』で、フランクリン、アダムズ、ジェファソンが国章をどの鳥にしようと議論する場面がこちら("The Egg")。フランクリンは七面鳥、ジェファソンは鳩、アダムズは鷲がいいと主張。
しばらく歩いて移動、下の写真はニューヨークで一番古いメソジスト派の教会。黒人の信者を受け入れたことで先駆的だったとのこと。両側を高い建物に挟まれているのですが、これは昔、建物の高さが決められていて、ただし、お隣に使っていない高さの分を売ることができたかららしい。よく分からない制度。ダウンタウンの中心へと移動。途中、ブロードウェイ・ミュージカルの原点らしい場所の紹介。ニューヨークで歌劇が初めて行われた場所?らしく、ワシントンとハミルトンも観劇、スタンディング・オベーションを受けたそう。これも建物自体は変わっていますが。
狭い道を移動します。マンハッタンの南部はごちゃごちゃとした通りが入り組んでいます。しばらく北へ行くと碁盤の目というか、きれいな四角のブロックがほとんどになりますが、そうした街の区画が考えられる前にできたのがダウンタウン・エリア。曲がって、くぐって、どう動いたのか分かりませんが、ジェファソンのニューヨークでの家の場所に到着(左下に移っているのがガイドのチャズさん、いろいろな装備をさげています)。
建物はすっかり変わって高層ビルになっていますが、ジェファソンが住んでいたことを示すプラックがついています。"28. The Room Where It Happens"で描かれる、ジェファソン家での晩餐での裏取引が行われたのが、この建物の二階あたり、らしい。
さらに歩いて、階段上って、ビルの谷間の空間へ。ジャン・デュビュッフェ作の大きなオブジェ "Four Trees" が立ってます。Trump Building(あのトランプ・タワーとは別です)が聳え立って、辺りには金融業の建物ばかりの Financial District のすっかり中心(地図で確認すると地下鉄のBroad St.駅そばですね、Broadwayからはずっとそれほど離れていない)。
広場を挟んで、The Bank of New York と Chase Bank が向かい合って建っている。それぞれハミルトンとバーに由来する銀行ということで、現在でも二人の関係は続いているといえば続いている。さらにウォールストリートへと向かいます。通りが狭い。いかにもテロの標的になりそうなところなんですけど……。
フェデラル・ホール前へ。アメリカ合衆国の首府が最初に置かれた歴史的な場所。ワシントンの銅像が立っています。ご一緒したボストン女性二人はさすがに地元びいきでボストンのほうが歴史は深い!という様子でしたが、ガイドのチャズさんはアメリカ合衆国史上最重要の史跡のひとつはこれ!と、フェデラル・ホール押し。
垂れ幕にも、「この場所は重要 This Place Matters」と大書されていますね。建物の中に入ると、9・11のテロの時の衝撃でできたヒビがありました。だいたいの箇所はもちろん補修されていますが、この箇所は記念として残しているとのこと。
フェデラル・ホールのオリジナルの建物の絵と、ワシントンが大統領就任式で手を置いて宣誓を行った聖書(実物)。
ワシントンの就任式を記念した石碑。
ワシントンの就任式の様子を示した模型。参列者が少ない?
正面のワシントン像を後ろから。こんな感じの視点で演説を行ったわけですね(右下の子供もそんな気分に浸っている?)。
下はフェデラル・ホール向かいの建物の壁。1920年9月16日に起きた Wall Street bombingでできた穴が残っています。イタリア人アナーキストによるものという説が有力だということですが、実際には犯人は不明。アメリカの経済の中心地が昔からテロリズムの標的になってきたことだけは確かです。
近くの地下鉄駅。J-Zのラインが通っている。このラインはブルックリンに通じていて、ラッパーの Jay-Z の名前の元にもなっている。ブルックリンのストリートから、アメリカのメインストリームに上り詰めた Jay-Z の成功物語にぴったりです。
ツアーの最後はトリニティ・チャーチへ。尖塔が見事なきれいな教会です。
ここはそう、ハミルトンが眠る場所。立派なモニュメントつきの墓が建てられています。ミュージカルのヒット前は訪れる人も少なかったようですが、今ではニューヨーク指折りの観光名所に。
すぐ隣には、イライザも眠っています。
ちょっと奥に回ったところには、ハーキュリーズ・マリガンも。
さらに奥に回ると、アンジェリカのお墓。"46. Who Lives, Who Dies, Who Tells Your Story" で、「そばにアンジェリカも埋葬された」とイライザが歌うわりには、意外と離れているなあという印象。マリガンとアンジェリカの墓の横には、説明のサインが立てられていますが、ツアーでご一緒した『ハミルトン』マニアのボストン人女性たちによると、数か月前に来た時には立ってなかった、とのこと。その時にはかなり苦労して見つけたらしいです。うろうろと探し歩く人があんまり多いから立てたんでしょうね。
というわけで、あまり広くはないマンハッタンの南端、ダウンタウンエリアに『ハミルトン』関連の史跡が集中しています。この辺りを歩いていると、アメリカ人の歴史に対する強いこだわりを感じるとともに、同じエリアが現在のアメリカ合衆国のみならず世界の経済の中心地として機能していることに驚かされます。というわけで、『ハミルトン』というミュージカルに "An American Musical" という副題がつけられていることの意味を実感したツアー参加でありました。また、他にもウォーキング・ツアーのグループがたくさん。チャズさんはニューヨーク市発行のガイド許可証を首から下げていて、それは必要なの、と聞くと、一応必要だけど、見せろとか言われたことはないなあ、でもつけてると説得力あるでしょ、とのこと(ニューヨークで許可証なしでOKなのはバーテンぐらい、とも)。チャズさんのようなガイドは観光地ニューヨークの重要な戦力。日本の京都などでも同様のツアーがもっと増えてもよい気がしますね。
ちなみにガイドツアーに参加しないで同行程を回りたい人には、
B.L. Barreras, Where Was The Room Where It Happened: An Unofficial HAMILTON: AN American Musical Location Guide. 2016.
という本が出ています。出版社名のところに Bryan Barreras と著者名があってファンが作った私家版なんですが、アマゾンでも購入可能です。Kindle版だと安いですね。内容もロケーションに地図、地下鉄路線・駅名、開館情報、行くべき理由、建て替えがあったかどうかなどよくまとまっていておススメです。
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