2017年3月5日日曜日

"10. Helpless" (from Hamilton: An American Musical)

スカイラー姉妹、再登場。"10. Helpless"では次女イライザ(Eliza)、次の"11. Satisfied"では長女アンジェリカ(Angelica)が語り手で、この2曲には『ハミルトン』の中でももっとも大がかりな仕掛けが組み込まれています。

まずは、"10. Helpless"。

<あらすじ>
ニューヨークの有力者の次女イライザは冬の舞踏会に現れたハミルトンを見てひとめぼれ。手紙のやりとり、ハミルトンがイライザの父の許可を得て、プロポーズ、そして二人の結婚にいたる。

というわけで、この一曲で、なんと、出会いから結婚まで一気に走り抜けます。あれよあれよ、という間に話が進んで、パーンパーカパーンと結婚式テーマが流れる(笑)。というわけで、恋愛話のかけひき、押し引きが好きな人にはちょっと期待はずれ?

曲は何度もくりかえされるコーラス部から始まります。

[Company] Helpless! Look into your eyes, and the sky's the limit. I'm helpless! Down for the count, and I'm drownin' in em.
[全員] どうしようもないわ! あなたの目を見つめると、気持ちはどこまでも舞い上がっていく。私はもうどうしようなくなるの! ノックダウンされて、うっとりとカウントを聞くだけよ。

ここの "Helpless!"はもちろんいい意味、もうぞっこんでうっとり、ですね。私はここを "Hopeless!"と歌ってしまう癖があるんですが(おいおい)、それだとどうとっても悪い意味にしかなりませんね・・・。ただし、"helpless"の語もリプライズで登場しているうちに「救いがたい」という悪い意味にスライドしていきますのでご注意。(あと、作品のクライマックスへもつながる「カウント」のテーマも登場していますね。)
そして、イライザの語りが始まります。

[Eliza] I've never been the type to try and grab the spotlight.
[イライザ] 私はスポットライトを浴びに前に出ていくタイプではなかったわ。

この最初の部分は、キャラクター付けで重要。なぜかというと、長姉のイライザが美人で才気煥発のニューヨーク社交界の華、まさにこの "the type to try and grab the spotlight" だからですね。

[Eliza] We were at a revel with some rebels on a hot night, laughin’ at my sister as she’s dazzling the room.
[イライザ] ホットな夜で私たちも反乱者たちと楽しんでたわ、姉さん(アンジェリカ)が部屋中の人の目を奪うのを笑って見ながらね。

このアンジェリカに対してイライザは控えめなタイプ。しかも、そのことを不満に思っているわけではなく、タイプは違うけれど仲の良い姉妹です(And Peggy! ペギーも!)。

ただし、だからと言って、アンジェリカが一番いいものを手に入れるかというとそうはならない、というのが面白いところ。

[Eliza] Then you walked in and my heart went “Boom!” [...] Grab my sister and whisper, "Yo, this one's mine."
[イライザ] それからあなたが入ってきたとたん、私のハートは「ドカン!」よ。[…] 姉さんをつかんで囁いたわ、「ヨオ、この人はあたしんだからね」

というわけで、イライザがいざとなれば行動できるしっかりものであるということが分かります(対して、アンジェリカは頭の回転が良すぎて、いろいろ考えているうち、一番の獲物を逃がすのですが、それは次の "11. Satisfied"で)。"Yo"っていうのがいいですね、あとに "Sis" とか入れたくなる(笑)。ふだんは目立つ長女の陰に隠れて目立たないが、目的が決まるとなると積極的、芯が強い、というやつですね。

その後、アンジェリカがハミルトンをイライザのところに連れてくる場面、その後の手紙のやりとり、ハミルトンがイライザたちの父アンジェリカに結婚の許可をもらいに行く場面、とつづき、ハミルトンのプロポーズの場面へ。

[HAMILTON] Eliza, I don’t have a dollar to my name, an acre of land, a troop to command, a dollop of fame. All I have’s my honor, a tolerance for pain, a couple of college credits and my top-notch brain. Insane, your family brings out a different side of me: Peggy confides in me, Angelica tried to take a bite of me. No stress, my love for you is never in doubt. We’ll get a little place in Harlem and we’ll figure it out. I’ve been livin’ without a family since I was a child. My father left, my mother died, I grew up buckwild. But I’ll never forget my mother’s face, that was real. And long as I’m alive, Eliza, swear to God, You’ll never feel so ([Company] Helpless).
[ハミルトン] イライザ、俺の名前には1ドルも、1エーカーの土地も、命令する小隊も、ちょびっとの名声もついてこない。俺にあるのは、名誉、苦痛への忍耐づよさ、大学の単位がちょっとと、一級品のこの脳みそだけ。おかしいよね、君の家族はそれぞれ俺のべつの面をひきだすみたいだ、ペギーは打ち明け話をしてくるし、アンジェリカは俺をつまみ食いしようとしたよ。心配ご無用、君への愛は疑いなしさ。ハーレムに小さな家でもかって、何とかやっていこうよ。子供のころから、ずっと家族なしで生きてきた。父さんは消えちゃったし、母さんは死んで、勝って気ままに育った俺だよ。でも母さんの顔だけはリアルで忘れられない。俺が生きている限りは、イライザ、神に誓うよ、君をけっして(どうしようもない)気分にはさせないって。

キャスト・アルバムを聞くと、"And long as I’m alive, Eliza~"のところでハミルトン=ミランダの声が急にだみ声になりますが、ミランダによるとこれはラッパーのジャ・ルール(Ja Rule)の真似だそう。ヒップホップ史ではエミネムとのビーフに負けてヒップホップ界から追放された(?)的に語られたりするジャ・ルールですが、スウィートな声の女性歌手とのタッグでポップな歌を多数ヒットさせ、ラップを一般に広めた功労者でもあります。Hamilton Mixtape では、このハミルトンのプロポーズ場面をジャ・ルール本人がラップしています。なんだか、ほっこり(?)する話ですね(ちょうどMixtapeで共演しているアシャンティ(Ashanti)との曲が見つかったので、どうぞ)。

さて、曲は結婚式おきまりのテーマがなって、めでたしめでたし。ところが、一方で、そんなにめでたい気分ではなかった人がひとりいて・・・というわけで、次の "11. Satisfied"へ、つづく。

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