ヒップホップもポピュラー音楽なのでたいていの曲は決まったパターンに従っています。Eminem の "Lose Yourself" は分かりやすいですね(Genius.com参照)。
[Intro] - [Verse 1] - [Hook] - [Verse 2] - [Hook] - [Verse 3] - [Hook] - [Outro]
というパターン。Hook はいわゆる「サビ」の部分、"Lose Yourself" ならタイトル通りの "You better lose yourself in the music~"、みんなが一緒に歌いたくなるところですね。通常は全体のメイン・アイデアを凝縮した内容になっている。ただし、ラッパーとしての本領がでるのは、Verse のところ。標準は16 bars (小節だと16小節)で、メイン・アイデアをサポートするサブアイデアが詳細も含んで展開される。Verse は3つあるのが基本です。"11. Satisfied"を分析するときに触れた英文エッセイと構造的には同じですね。"Lose Yourself" のアウトラインを書いてみると、
トピック [Intro]
チャンスがあったらものにする、それとも、逃してしまう?
メイン・アイデア [Hook]
チャンスは一度きりだ、ぜったいにものにするぜ!
サブ・トピック1 [Verse 1]
バトルの現場は厳しい、だからこそ、瞬間を逃さないぞ
サブ・トピック2 [Verse 1]
私生活はめちゃくちゃだけど、ここで成功すれば世界の王様だ!
サブ・トピック3 [Verse 1]
どこから見ても追い込まれているんだ、チャンスをつかむしか俺には道はない
クロージング [Outro]
本気になれば何だってできるもんさ
物語的展開なので上のようにすっっきりさせても、なんですが、テーマの展開を考えるとこんな感じかな。英語のラップ・ヴァースの書き方入門をちらほら覗いてみましたが、だいたいは hook(メイン・アイデア)を先に考えて、それから Verse を全体の流れを考えながら書いていく、とアドバイスしていました。このあたりも英文エッセイと一緒ですね。英語で表現すると、どうしてもこう理屈っぽくなるものなのか。日本では(アメリカでもあまり変わらないか)一般のラッパーのイメージは、怒りにまかせてどなり散らすというものかもしれませんが、実際のヒップホップの曲はこのように冷静に構成されたものだ、というのは大事な点ですね。
『ハミルトン』でいうと、"I want"ソングである "3. My Shot" は上と同じような分かりやすい構成になっているのが、一目でわかると思います。
[Hook(Intro)] - [Verse 1] - [Hook] - [Verse 2] - [Hook] - [Bridge] - [Verse 3 ] - [Hook]
IntroがHookと同じになっていて(Hookにはトピックが入っているので、Introにも使える)、Bridge (転調などで雰囲気が変わる箇所)がある、Outroはない、と違いはありますが、Hook/Verseが交互に出てくるのは同じ。これもヒップホップ曲の基本形のひとつ。複数の人物が登場するので分かりにくく思うかもしれませんが、内容のまとまりで考えると Verse ごとに1サブトピックです。
[Hook(Intro)] I am not throwing away my shot ~
チャンスは絶対に逃さないぜ!
[Verse 1] I'm a get a scholarship to King's College ~
状況は厳しいが俺はとにかくすげえんだ(と思う)、独立騒ぎで一気に成り上がるぜ!
[Verse 2] I dream of life without a monarchy ~
俺たちそれぞれ夢があるんだ、一緒に革命を起こすぞ!(友達ができたよ、どうしよう?)
[Bridge] Ev’rybody sing: Whoa, whoa, whoa ~
オラオラ、お前らもいっしょに起ち上がるぞ、革命だ、革命!(by ローレンズ)
[Verse 3 ] I imagine death so much it feels more like a memory ~
いつも死のことを考えてしまうが、今を生きて未来を書き換えるんだ、未来が見えたぞ!
[Hook(Outro)] I am not throwing away my shot ~
チャンスは絶対に逃さないぜ!
え、メイン・アイデアは"Lose Yourself" と同じじゃないかって? まあ、そうですね(笑)。成り上がりはヒップホップ・アーティストの基本テーマのひとつですから、どのアーティストにも同じような曲がありそう。
問題はこうした分析が、"23. Non-Stop" のような曲にもできるか、というところですが・・・。全体としては、バーの視点からの曲です。
[Intro] After the war I went back to New York ~ Non-stop!
ハミルトンの成功の理由はとにかく non-stop なことだ
[Verse 1] Gentlemen of the jury, I’m curious, bear with me ~
法廷でしゃべりまくるハミルトン
[Hook 1] Why do you assume you’re the smartest in the room? ~
どうして自信満々で、いつも書き続けていられるのか?
[Verse 2] Corruption’s such an old song that we can sing along in harmony ~
憲法会議でしゃべりまくるハミルトン
[Hook 2] Why do you always say what you believe? ~
どうして信念をすぐ口にするのか、いつも書き続けていられるのか?
[Verse 3] [BURR] Alexander? / [HAMILTON] Aaron Burr, sir ~
『フェデラリスト・ペーパー』に協力してくれというハミルトンの依頼を断るバー
[Bridge] I’ll keep all my plans close to my chest ~
俺はこの国の方向が定まるまで辛抱して待つぞ
[Verse 4] I am sailing off to London ~
アンジェリカがロンドンへ移住、イライザを振り切って仕事に励むハミルトン、『フェデラリスト・ペーパー』
[Hook 3] How do you write like you’re running out of time? ~
どうしてそこまで休みなしに書き続けていられるのか?
[Verse 5] [WASHINGTON] They are asking me to lead
ワシントンからハミルトンへ、財務長官就任の依頼
[Outro] [ELIZA] Alexander… / [HAMILTON] I have to leave
Non-stopの仕事中毒ハミルトン、第一幕テーマの総括ー「チャンスは逃さないぜ」
一見ややこしくなりましたが、メイン・テーマが「ハミルトンは non-stop」であるということを書いた Hook の部分と、個々の状況を書いた Verseの部分が交互に出てきているのが分かると思います。あと、Bridge でバー本人の信念が提示されていて、それ以降はバーが出てこないことにも注目。"non-stop" のテーマ展開は Bridgeの前で終わっていて、それ以降は第一幕の総括が入っているという感じかな?
というわけで、ほかの曲にもある程度、同じような分析ができるのではないかと思います。Hook と Verse を分けて考えるのがいちばんのポイント。そして、Hook は全体のメイン・アイデアを表すのでずっと同じ内容、Verse のほうは論理的か物語的にか展開していきます。何か言うときには、はっきりとトピックとメイン・アイデアが決まっていなければならない、そして説明は論理的に展開する、というのは、アメリカ英語でコミュニケーションする場合、インテリかどうか、冷静に説得するかケンカするか、など状況にかかわらず共通する、生理的ともいってもよい基本なのかもしれません。
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