2017年3月14日火曜日

"17. That Would Be Enough" from Hamilton: An American Musical

緊張感がつづいた前曲の流れから、ストリングスの響くゆったりした曲調へ。ハミルトンとしては穏やかな気分ではないですが、オーディエンスとしてはほっと一息というところ。何と言っても、次の曲から、独立戦争終結への怒濤の流れが始まりますので・・・。

といわけで、イライザが歌い上げる "17. That Would Be Enough"。

<あらすじ>
自宅謹慎命令を受け帰宅したハミルトンは、妻イライザの妊娠を知る。家族を養わなければならないのに今の状況は、と落ち込むハミルトンに、イライザは過去を考えれば今の状況で十分じゃないのとなぐさめる。

[Eliza] Look around, look around at how lucky we are to be alive right now. [...] Look at where you are, look at where you started. The fact that you're alive is a miracle. Just stay alive, that would be enough.
[イライザ] あたりを見回してごらんなさい、ほら、私たちが今生きているっていうのは幸運なことだわ。[・・・] あなたが今いる場所、それからどこから始めたのかを思い出してみて。あなたが今生きているっていう事実が奇跡だわ。ただ生きているってだけでも、それだけでも十分じゃないの。

最初の箇所は、"5. The Schuyler Sisters"のフレーズのリプリーズですね。革命騒ぎに浮かれていた元曲からはまったく違うトーンで、現状に満足しましょうよ、という意味になっています。「十分じゃないの」("That Would Be Enough")というのは、ハミルトンの "never satisfied"な性格にはまったく合わないわけですが、このシーンだけに関していうと、ハミルトンもずいぶん慰められているように感じます。

[Eliza] I don't pretend to know the challenges you're facing, the worlds you keep erasing and creating in your mind. But I'm not afraid, I know who I married. So long as you come home at the end of the day, that would be enough. We don't need a legacy, we don't need money, if I grant you peace of mind, if you could let me inside your heart. Oh, let me be a part of narrative in the story they will write someday. Let this moment be the first chapter, where you decide to stay, and I could be enough, we could be enough, that would be enough.
[イライザ] あなたが立ち向かっている困難がどんなものだか分かってるふりをするつもりはないわ。あなたが心の中でどんな世界を消したり描いたりしているのかもね。でも恐くはないわ、どんな人と結婚したかは私、よく分かっているもの。一日の終わりにあなたが家に帰ってきてくれるだけで、それだけで十分なの。私たちには遺産も、お金も必要ないわ、もし私があなたの心を穏やかにしてあげられて、あなたが心のなかに私を入れてくれるならね。ああ、誰かが将来書くあなたの物語の一部に私をしてちょうだい。この瞬間を最初の章にして、あなたはそこに留まるって決めるのよ、そうすれば、私は十分、わたしたちも十分だわ、それで十分なはずよ。

ここで、以降に向けていちばん重要な箇所は、「あなたの物語の一部に私をしてちょうだい」("Let me be a part of your narrative")でしょう。一歩引いた妻として、あなたの物語の一部であるだけで十分って、ちょと古くさいようですが・・・。このフレーズ、第二幕での展開に大きく響いてきます。

先ほども書いたとおり、ここでイライザが誘っていることは、ハミルトンの基本姿勢とは真っ向から矛盾するわけで、物語的には小休止の役割しか果たしません。「私たちには遺産も、お金も必要ないわ」("We don't need a legacy, we don't need money")あたりは優しいように見えて、厳しい条件から成り上がって何が何でも成功する意気込みのハミルトンに対する、スカイラー家のお嬢様イライザの無理解が見える気がしますね。イライザの優しさで心を落ち着けながらも、言葉の内容的には、十分なわけないじゃん、子供できたし金もいるしさあ、とアレグザンダーくんは心のなかで突っ込んでいるのかも。

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