2017年3月9日木曜日

Leslie Odom, Jr., "Seriously"―オバマが最後に言いたかったこと?

オリジナル・キャストとして『ハミルトン』裏の主人公アーロン・バーを演じたのは、レズリー・オゥドム・ジュニア(Leslie Odom, Jr.)。バー役で2016年トニー賞の主演男優賞を受賞しています。ちなみに、ミランダも同賞にノミネートされていました。賞レースでは裏の主人公が表の主人公をやぶったかたちですね。主演なの?という声もなくはなかったみたいですが、語り手、道化役、裏の主人公と、『ハミルトン』への貢献を考えると、妥当だと私は思います。ドキュメンタリーを観ると、オドゥムは他のキャスト(ミランダ組、という雰囲気)とはちょっと離れて位置を占めている感じで、演技・歌だけではなく、彼の存在感が『ハミルトン』の重層的な味わいに大きく寄与したのだろうなと想像できます。

そのオゥドムの歌唱力を十二分に味わえる動画を見つけました。

Seriously - This American Life, Sara Bareilles, and Leslie Odom, Jr.

PBSの企画で作られたもので、『ハミルトン』とともにトニー賞ノミネートされていたミュージカル Waitress で作詞作曲を担当した、また現在行われている公園では主演も務めている人気歌手のサラ・バレリス (Sara Bareilles)が作詞作曲した曲を、オドゥムがパフォームするという趣向。

歌詞が面白くて、動画の始めの説明文によると、

”This American Life asked songwriter Sara Bareilles to imagine the thoughts Barack Obama is not saying publicly about this election and Donald Trump.”

とのこと。任期が終わりに近づいたオバマ大統領が、2016年の選挙戦を見ながら感じていたけれど公には言えなかった気持ちを代弁(?)して歌っています。2016年10月の日付があるので、11月のトランプが当選するより前につくられた動画ですね。

訳を載せてみます。えーと、まず読まないで、オドゥムの歌のうまさを味わってから、つぎに軽く訳を読んで、もう一度動画を見てもらえるといいかと。(原語歌詞はGenius.comで確認してください。)

   シリアスに

希望から始めよう
私が希望を跳ね石のように投げたら
さざ波があたりに広がって、たいしたもんだったさ
そう思いたがらない連中もいるだろうが
私は最高指揮官としてここに立って
そのことをシリアスに受け止めている

でも途中で
悪党の波が津波を返して寄こした
私がやろうとしたことに反応してね
憎しみに満ちた一国民の再生さ
赤、白、それに青、
そこに黒も入るのかな?
シリアスに?

一人の男が
悪いおこないについての本を書きなおしている
たぶん隣人たちをたぶらかしながら
本気でみんなが求めるものを与えてやると思っているんだ
私たちは彼の背中を叩いて
そのまま通してやるってわけにはいかないさ
無知が美徳になる人間なんているわけがないから
私たちがベストをつくした結果がこうなのか
シリアスに?

恐怖について話そうか
なぜ私がここに恐怖を持ち出さないかを
危険な言葉だからさ、群れを怯えさせ
逃げ惑うなかで私たちは血を流す
恐怖は悪い友人を連れてくるだな、まさに
それを私はシリアスに考えている

だから私の言葉を聞いてくれ
真実が捉えどころのない扇動者によって
捉えどころのない扇動者によって
押し流されてしまう前に
やつは繰り返す歴史そのものだ

怒ってる?
私は怒ってるのかな?
怒ってるかって私に訊くのか?
言葉に詰まってしまうよ
私たちが成し遂げたあれこれのあと
苦難して勝ちとったあらゆる戦い
白くなってしまった一本一本の髪
この土地の名のもとに
信じがたい数多くの過ちに
たたられた歴史のなかで
いまだに私は忠誠を誓うんだ、この
一つである、分断した、アメリカに
シリアスにね

終わりは「なぜ」で締めくくろうか
そう問いかけたいんだ
私たち国民全員にね
私たちの時代を、この物語の重みをシリアスに
考えてみないか

「この物語 this story」とはアメリカ合衆国の歴史のことで、ミュージカル『ハミルトン』のテーマとも重なってきますね。アメリカの歴史のなかで、始めのほうの比喩に表されているように、対立する波が押したり引いたりをくり返している。アメリカにマイノリティとして(もしかしてマジョリティとしても?)生きるということは、いつその波をかぶることになるかという不安に怯えることなのでしょうか。「怒ってる?/私は怒ってるのかな?/怒ってるかって私に訊くのか?/言葉に詰まってしまうよ」("Angry? / Am I angry? / You ask am I angry? / And I'm at a loss for words")のところはぐっときますね。

ローレンズ/フィリップ役アントニー・ラモスが練習中うまくいかないときがあってイライラしていたら、オドゥムがすっと寄ってきて、「心配いらない、うまくやってるよ」とだけ囁いて去っていったそうです。いやー、かっこええなあ。

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