2017年3月20日月曜日

『ハミルトン』と『モアナと伝説の海』

"20. Yorktown (The World Turned Upside Down)"のあと、何を書いたものかなと思案。いちおう、ここまでだいたいは前記事の曲に関連したことを書いてきたのですが、ちょっと変化球で・・・。

公開されたばかりの『モアナと伝説の海』(原題 Moana)を観てきました。リン‐マヌエル・ミランダが楽曲づくりと歌・ラップで参加しています。『ハミルトン』がらみで観にいく日本人は少なそうですけどね。

感想を結論から書くと、とてもよかったです。ディズニー・アニメの表現としても、今までとくらべても一段階レベルが上がっているのではないかな。人物や水の動きが自然でふとした瞬間に実写かと思わされてしまいます。しっかり重力やら空気圧やらの物理的力が働いているように感じられるのですね。アニメとしての表現も十二分に活かしているし、映像表現だけでも観にいく価値があるでしょう。

もう一点、物語内容に入る前に書いておくと、ポリネシア文化につての調査も行き届いています。アメリカの映画はマイノリティ文化だとか、他地域の文化についてはぞんざいに描くことが多くて、うんざりさせられるのはほぼ毎度のことなのはご承知のとおり。『モアナ』でもそうした問題はまったくゼロにはなりませんが(「マウイのスキン・スーツ事件」とか・・・)、これまでと比べると格段に改善されています。もちろんポリネシア人からすると色々言いたいことはあるでしょうが(実際批判はあるのですが)、多少調べた者からすると、20世紀後半からのポリネシア文化の再興―ポリネシア式航海術やタトゥー―の動きもちゃんと反映されていて、これであんまり文句言うのもなあという印象。

というわけで、ポリネシアの島の少女と、マウイという半人半神のポリネシア神話では最重要のキャラクターが主人公。近年のディズニー映画の女の子キャラの中でも特に、男性関係なしで不自然ではない女性の活躍が見られるので、おすすめです。まあ、日本人としては、Studio G のアニメと似ているところがあるのが、ちょっと気になるかもしれません。とくに最後のシーン。『アナと雪の女王』のようにはヒットしないのだろうな。個人的にはこちらのほうがずっと好きですが。

で(お話の内容はほどほどに)、ミランダの楽曲について。まず、『ハミルトン』がヒットしたからミランダを引っ張りこんだんでしょーと思ってしまいそうですが、『モアナ~』の話は『ハミルトン』旋風より前から決まっていたそうです。まあ、『イン・ザ・ハイツ』ですでに成功しているわけですが、こんなことになるとは、ディズニー関係者も想像できなかったでしょう。音楽については、ミランダ以外に2人の名前がクレジットされています。まず、マーク・マンシーナ。この方はディズニー映画以外にもたくさん映画音楽を手掛けているベテラン(変わったところだと、日本アニメの『BLOOD+』なんかも手掛けていますね)。もう一人は、オペタイア・フォアイ(Opetaia Foa'i)。1997年にトケラウ、ツヴァル、サモア、クック諸島、ニュージーランドからのメンバーで結成され現在も活躍するオセアニア音楽バンド Te Vaka のリーダー。『モアナ~』では全体の音楽はマンシーナが担当して、歌のパートは2人か3人で協力して書いている。こちらでフォアイによる "We Know The Way" の演奏が聴けます。

Opetaia Foa'i Sings "We Know The Way" At Moana UK Premiere

曲紹介のところで、「友だちのリン‐マヌエル・ミランダと書いた曲だよ」と言っていますね。映画では、この部分はミランダが歌っています。「無垢な勇者」と日本語では訳されている "Loimata e Maligi" (日本版CDの二曲目)は 、Te Vakaのアルバム Nukukehe (2002)の同名曲がそのまま使われていますね。きれいな曲です。

ただ、映画の中でミランダらしさがもっと出ていたのは別のところでした。マウイが歌う "You're Welcome"。ビデオでは1:40ぐらいからラップに入ります。マウイが自分の業績(legacy)を自慢していくのですが、"welcome"から、"Well, come to think of it.."と切り替える言葉遊びは、ミランダらしいなあと思わされるところ。映画最後にかかるリプライズで、ミランダ自身によるラップが聴けます。ヤシガニの怪物タマトアが歌う "Shiny" の遊びごころもミランダらしいかな。そういえば、マウイ役がドウェイン・ジョンソン(Dwayne Johnson)なことに気付いてびっくり。といっても分からない人には分からないでしょうが、WWEのトッププロレスラーだった The Rock というと日本でも知っている人が多いはず。うーん、歌もラップも超うまいんですけど。なぜマウイが The Rockかというと、お母さんがサモア系なんですね。知らなかった。ジョンソンとミランダが遊びで作ったらしいビデオがこちら―mockumentaryだそうなので、真面目にとらないように。

ところで、ネットで『モアナ~』の曲を検索していると、映画でも日本で発売されたCD(英語版)にも入っていない曲(例えば、モアナがお父さんから戦い方を教わっているシーンらしい "Warrior Face"ーこの曲についてのミランダの解説がこちらの5:50ぐらいから)がヒットします。どうやらアメリカで発売されているCDには1枚組と2枚組の二通りがあって、2枚組のほうには映画版では使われなかった曲のデモテイクが入ってるんですね。歌詞の内容的に面白い曲(マウイを3人称で描いたミランダのラップがたっぷり聴ける”Unstoppable"とか)もあるのですけど、日本からだとiTunesでも日本発売版しかダウンロードできないみたい。さすが大資本ディズニーですね、商いが細かい! アマゾンだと2枚組もCDで買えるけど、けっこう高いな、どうしようかなあ。YouTubeで聴けるしなあ・・・。うーん、DVDが出るときにいろいろ特典がついて、ミランダのレコーディング風景とかも入るとうれしいですね(こっちでちょっと見れますね)、『ハミルトン』映画版はずいぶん先のことになりそうですし。

あと、歌い手として、クリストファー・ジャクソン(『ハミルトン』のワシントン役オリジナル・キャスト)が参加していますね。主人公モアナのお父さん役の歌のところ。物語のなかの声は別の人です。『ハミルトン』のワシントンもお父さんっぽいキャラクターですが、「ジャクソン=お父さん」というイメージで脳内定着していいでしょうかね?

というわけで(?)、『ハミルトン』を知らなくても十分楽しめる、『ハミルトン』を知っていればもっと楽しめるかも知れないディズニー映画『モアナと伝説の海』のお話でした。

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