2017年3月19日日曜日

"20. Yorktown (The World Turned Upside Down)" from Hamilton: An American Musical

第一幕のクライマックス、アメリカ独立を決定づけたヨークタウンの戦い。いちばんストレートに盛り上がる曲。トニー賞でとりあげられた曲で、このパフォーマンスから『ハミルトン』の世界へ足を踏み入れることになった人が多いのではないでしょうか。とくに、盛り上がり最高潮のところへ飛び出してくるオーク・オナオドワン演じるハーキュリーズ・マリガン! そして、"Immigrants, we get the job done."の決めゼリフ。盛り上がり必至の曲、"20. Yorktown (The World Turned Upside Down)"。

<あらすじ>
最終決戦に臨むハミルトンら。ハミルトンとラファイエットは「仕事を仕上げるのは俺たち移民だ」と気勢をあげる。そして戦闘開始、それぞれの持ち場で活躍するローレンズ、マリガンたち。一週間の戦いののち、ついにイギリス軍が降伏。アメリカ独立革命における戦闘は終結に向かう・・・。

冒頭、『ハミルトン』から引用された回数がいちばん多いであろうラインが登場します。

[COMPANY] The battle of Yorktown. 1781
[LAFAYETTE] Monsieur Hamilton!
[HAMILTON] Monsieur Lafayette!
[LAFAYETTE] In command where you belong
[HAMILTON] How you say, no sweat. We're finally on the field. We’ve had quite a run
[Lafayette] Immigrants,
[全員] ヨークタウンの戦い。1781年。
[ラファイエット] ムッシュー・ハミルトン!
[ハミルトン] ムッシュー・ラファイエット!
[ラファイエット] 指揮官とは適材適所だね。
[ハミルトン] 何ていうか、楽勝でしょ。ようやく俺たち二人で戦場に立ったわけだ。多少は頑張っちゃったかね。
[ラファイエット] 移民、
[ハミルトン/ラファイエット] 仕事を仕上げるのは俺たち移民だ。 

この最後の台詞があまりにウケて後に拍手が鳴り止まないので、4拍の休みをとることにしたそうですが、休むと拍手を逆にあおっているみたいになって微妙なので、最終的には2拍の休みになったそうで。トランプ大統領候補の登場でさらにこの台詞がフィーチャーされていましたね。

[Hamilton] So what happens if we win?
[Lafayette] I'll go back to France. I bring freedon to my people if I'm given the chance.
[Hamilton] We'll be with you when you do.
[ハミルトン] で、勝ったらどうする?
[ラファイエット] 俺はフランスに帰るよ。チャンスがあったら自分のとこの国民のためにも自由を勝ち取るさ。
[ハミルトン] そのときは俺たちも一緒に戦うぜ。

この部分は後の展開("30. Cabinet Battle #2")を知っていると微妙な気分になるところ。すぐに帰っちゃうラファイエットは「移民」なのかなあ?という気もしないわけではないですね。盛り上がりに水を差してすみませんが。

ここから"3. My Shot"のリプリーズに。

[Hamilton] I imagine death so much it feels more like a memory. This is where it gets me: on my feet, the enemy ahead of me. If this is the end of me, at least I have a friend with me. Weapon in my hand, a command, and my men with me. Then I remember my Eliza’s expecting me. Not only that, my Eliza’s expecting. We gotta go, gotta get the job done. Gotta start a new nation, gotta meet my son!
[ハミルトン] 死ぬことを考えすぎて、死を思い出の中のことみたいに感じるんだ。そうしてたどり着いたのがここさ。自分の足で立って、敵を目の前にしてる。これが俺の最後だとしても、友だちが一緒にいてくれるわけだ。手には武器もあり、指揮権も、従う兵士たちもいる。そうだ、イライザが俺を待ってる。それだけじゃない、俺のイライザのお腹には子供がいるんだ。進んで、仕事を仕上げるんだ。新しい国を立ち上げて、息子に会うんだ!

この部分は、ハミルトンの人生がすべての要素をいっしょくたに飲み込みながら、仕事の成功、友人との信頼関係、家庭での幸福、国の誕生すべてが一体となって実現へと向かっていく。テーマが詰め込んでありますね。この "I imagine ~"のリプリーズはもう一度、第二幕の最後で登場します。

ここから本格的な戦闘シーンに。ハミルトンの奇策、

[Hamilton] Take the bullets out your gun.
[ハミルトン] それぞれ銃から弾を抜きとれ。

はちょっと分かりにくいかもしれませんが、敵に忍び寄って一気に決戦に持ち込む狙いなので、うっかりとかビビって弾を撃つやつがいないようにと万全を期しての命令。しかし命がけですね。そして三人組はそれぞれ自分の持ち場で奮闘。

[Hamilton] And so the American experiment begins
With my friends all scattered to the winds
Laurens is in South Carolina, redefining brav’ry
[Hamilton/Laurens] We'll never be free until we end slav'ry!
[ハミルトン] こうしてアメリカの実験が始まる、
俺の友だちは風の向くままに散っていき、
ローレンズはサウス・カロライナで、勇敢さの定義を更新中、
[ハミルトン/ローレンズ] 奴隷制を廃止するまで俺たちも自由じゃないぞ!

ローレンズは南部サウス・カロライナ出身、大農園主・奴隷所有者の息子です。しかしヨーロッパに行ったときに徹底した奴隷制廃止論者になり、ここでは黒人奴隷を兵士としてリクルートすることで自由への道を切り開こうとしているところ(戦争で戦った自由を、というのは現在からするとちょっと・・・な考え方ですが、時代が時代ですからね。ちなみに第二次世界大戦中の日系人も同じような体験をしています―ミュージカル Allegiance (2012)を参照。ローレンズは同じような出自のワシントン将軍の一番のお気に入りだったそうです、しかし・・・、おっとネタバレは避けて次へ。

ラファイエットはというと、

[HAMILTON] When we finally drive the British away, Lafayette is there waiting—
[HAMILTON/LAFAYETTE] In Chesapeake Bay!
[ハミルトン] イギリス軍をようやく追っ払うことができたら、ラファイエットが待っているぞ、
[ハミルトン/ラファイエット] チェサピーク湾で!

フランスに行ったと思ったら、あっという間に戻ってきて、それから海のフランス海軍と合流・・・目まぐるしいですね。このとき、たまたまカリブ海あたりで余っていたフランス海軍の戦艦があまっていたので、お手伝いしてもらったそう。アメリカ独立は歴史的な流れではあったんでしょうが、いろいろ僥倖も重なって達成されていきます。

さて、お待ちかねのマリガン登場。

[HAMILTON] How did we know that this plan would work? We had a spy on the inside. That’s right
[HAMILTON/COMPANY] Hercules Mulligan!
[MULLIGAN] A tailor spyin’ on the British government! I take their measurements, information and then I smuggle it
[COMPANY] Up
[MULLIGAN] To my brother's revolutionary covenant. I’m runnin’ with the Sons of Liberty and I am lovin’ it![Mulligan] See, that's what happens when you up against ruffians. We in the shit now, somebody's gotta shovel it! Hercules Mulligan, I need no introduction. When you knock me down, I get the fuck back up again!
[ハミルトン] なんでこの計画が上手くいくって分かったかって?敵陣にスパイがいたのさ。そうご存知、
[ハミルトン/全員] ハーキュリーズ・マリガン!
[マリガン] イギリス政府をスパイする洋服仕立て屋。あれこれ探って情報を入手、そいつを密輸するのさ。
[全員] きっちり
[マリガン] ブラザーたちの革命盟約に則って、「自由の息子」の一員として奔走する、こりゃたまらんね! ほら、荒くれどもとやり合ったらどうなるか分かったろ。糞にはまってるんだ、糞汲み係がいるよな! それが俺ハーキュリーズ・マリガンさ、紹介なんていらんぜ。殴り倒されても、屁でもねえ、また起き上がるまでさ!

「自由の息子 the Sons of Liberty」は労働者たちを主力として結成された秘密結社。18世紀中盤から急に増えたアイルランド、ドイツからの貧しい移民たちは、大陸会議に参加していたエリートたちとは別の流れで、アメリカ独立に大きく貢献します。アイルランド移民で洋服仕立て屋のマリガンはニューヨークの有力メンバーでした。ところが、独立後には資産家のみに参政権を与える案も出たりして、マリガンたちの貢献は無視されそうになったことも。自身も労働者階級出身のベンジャミン・フランクリンの鶴の一声で廃案になったそうです。

ここの戦闘場面、音楽的にはレコードのスクラッチ音で激しさが表現されています。『ハミルトン』中、もっともヒップホップ的と評されるマリガンのパフォーマンスとともに、ヴァース以外の意味でのヒップホップ活用がみられる場面。ここを聴くと、Public Enemy の名盤 It Takes A Nation of Millions To Hold Us Back (1988)を連想するのは私だけではないはず。 ヒップホップが本当に新しい音楽だった時代の勢いを感じます。ただし、Public Enemy というグループ名はアメリカ合衆国という制度の敵という意が込められているでしょうから、そうした制度を中心になって作り上げた「建国の父」についてのミュージカルに結び付けられて、Chuck Dたちが喜ぶかどうかは微妙かも。『ハミルトン』が気に食わないというヒップホップ・アーティストの急先鋒かもしれない・・・。ちょっと脱線しました。

そして、

[HAMILTON] After a week of fighting, a young man in a red coat stands on a parapet
[LAFAYETTE] We lower our guns as he frantically waves a white handkerchief
[MULLIGAN] And just like that, it’s over. We tend to our wounded, we count our dead
[LAURENS] Black and white soldiers wonder alike if this really means freedom.
[WASHINGTON] Not yet.
[ハミルトン] 一週間の戦いのあと、赤いコートの若い男が胸壁のうえに立つ。
[ラファイエット] そいつが狂ったように白いハンカチを振るのを見て、俺たちは銃を下す。
[マリガン] そんなふうに終わったんだ。俺たちは怪我人の世話をして、死者の数を数える。
[ローレンズ] 兵士たちは黒人も白人も思う、これで本当に自由になったのかと。
[ワシントン] いやまだだ。

イギリス軍降伏により、アメリカの勝利。ただし、ローレンズとワシントンのせりふは戦後に残る困難を示しています。つまり、奴隷制のことですね。「兵士たちは黒人も白人も」同じ疑問を抱いたわけですが、違った答えを与えられることになります。Hamilton Mixtape の "Immigrants (We Get the Job Done)"ではこの部分が引用・サンプリングされて、アメリカの現在も残る人種・移民の問題がとりあげられます。
(ついでに書きますが、Hamilton Mixtape も『ハミルトン』OBCアルバムも、"clean"ヴァージョンと"explicit"ヴァージョンがあります。"clean"はダーティ・ワーズが検閲されたお子様向け?なので、購入するときは"explicit"をおすすめします。そうでないと、上のマリガンの "shit"や"fuck"が聴けません(笑)。)

さて、戦闘が終わり戦後処理へ、そして独立戦争勝利を祝う群衆が街へ繰り出す。と、ここでキーになるラインがそうした群衆のものではなく、敵のイギリス軍が歌う歌だ、といのも面白いところ。

[HAMILTON] And as our fallen foes retreat, I hear the drinking song they’re singing…
[ALL MEN] The world turned upside down
[ハミルトン] そして俺たちに倒された敵が退いていくとき、彼らが酔っぱらいながらこんなふうに歌うのが聴こえてくる・・・
[男性全員] 世界がひっくり返った。

“The World Turned Upside Down”は、敗北したイギリス側の兵士が歌ったとされるバラッドよりとられたもの)。どうやら、史実としては確認されていないようですが、よくできた話ではあります。バラッド自体は17世紀からある古いもので、いかにもバラッドな歌。さすがにこのままは使えないようで、『ハミルトン』ではメロディはミランダ・オリジナルになっています。

そしてついに勝ちどきを上げる時が・・・。

[LAFAYETTE] Freedom for America, freedom for France!
[HAMILTON] Gotta start a new nation. Gotta meet my son
[MULLIGAN] We won!
[ラファイエット] アメリカに自由を、フランスに自由を!
[ハミルトン] 新しい国を起ち上げないと。息子に会わなければ。
[マリガン] 俺たちの勝利だ!

勝利に酔いしれるラファイエット、マリガンたちに対して、ハミルトンはすでにその先を見ています。国作りと家族(公/私)が並べられるのものちの展開からして注目のポイント。

さて、革命、世界の転覆が達成されました。でも、ミュージカル『ハミルトン』はまだ第一幕、さらにその第一幕もあと3曲残しています。二幕ものであることがほぼ宿命づけられているミュージカルにおいて、この第一幕の締めはとても大事なところ。さて、いかにして幕間もオーディエンスの興味をつなぎとめ、第一幕の勢いを第二幕へとつなげていくか。さてはて。

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