<あらすじ>
戦いが終わってバーとハミルトンは帰宅。生まれたばかりの第一子に向けて、安全で自由に活躍できる国をつくる決意を語る。
ステージ上はバーとハミルトンのみ。二人は観客のほうを向き、椅子を前に少し離れて立っている。そして、バーが歌い始めます。
[Burr] Dear Theodosia, what to say to you? You have my eyes, you have your mother’s name. When you came into the world, you cried and it broke my heart.
[バー] 親愛なるシオドゥジア、何を語りかければいいんだろう? 俺の目をしてるな、母さんと同じ名前だ。世界に生まれてくるときお前は泣き声をあげた、そのとき俺の心は粉々になっちゃったよ。
ここはちょっと混乱するところかもしれません。シオドゥジアはバーの不倫相手、イギリス軍の将校の奥さんじゃなかったの? え、子供の名前なの? ややこしいことに、そのイギリス軍将校の旦那様が亡くなって、バーと結婚した女性もシオドゥジア、その二人のあいだに生まれた娘もシオドゥジアです。ご存じのとおり、男性が父親の名前を受け継ぐことはヨーロッパやアメリカでは普通のことですが、女性が母親の名前を継ぐことはまずない。シオドゥジア母はバーよりも10歳年上の女性で、バーは彼女を深く尊敬していたようで、娘にも彼女の名前を、と付けたそうです。
[Burr] I’m dedicating every day to you. Domestic life was never quite my style. When you smile, you knock me out, I fall apart. And I thought I was so smart.
[バー] これからの毎日をお前に捧げていくよ。家庭的な生き方なんてのは俺のスタイルじゃなかったのにな。お前が笑うたびに、ぶん殴られたみたいに、すっかりやられちゃうよ。なのに、自分は利口なやつだなんて思い込んたなんてな。
"fall apart"は辞書を引いてもよい意味がなかなか出てきませんが、ミュージカルについての本を読んでいると、感動的なシーンがあってそのシーンになるたびに観客が "fall apart"するという表現が出てきました。意表をつかれて、予想できないインパクトを受けるということでしょうね。もちろん、よい意味で。
[Burr] You will come of age with our young nation. We'll bleed and fight for you, we'll make it right for you. If we lay a strong enough foundation, we'll pass it on to you, we'll give the world to you. And you'll blow us all away, some day, some day.
[バー] 生れたばばかりの俺たちの国と一緒に、お前は大人になっていく。お前たちのために俺たちは血を流し戦うさ、お前たちにぴったりの国にするためにね。じゅうぶんに安定した基礎が築けたら、お前たちにそれを残していこう、ひとつの世界を送るってことだ。そうすれば俺たちを心底驚かしてくれるだろうな、いつの日にか、いつの日にかね。
[Hamilton] Oh Philip, when you smile I am undone. My son. Look at my son. Pride is not the word I’m looking for. There is so much more inside me now
[ハミルトン] ああ、フィリップ、お前が笑うと力が抜けちまうよ。俺の息子だぞ。見てくれよ。プライドなんて言葉じゃ言い表せないな。俺の心はもっとたくさんの感情でいっぱいなんだ。
ハミルトンの息子はお祖父ちゃんのフィリップ・スカイラーの名前をもらったんですね。性別の違いはありますが、バーとハミルトンが子供に向けての同じ感情を共有しています。そして過去の共通点も相まって、二人の合唱へ移っていきます。
[Burr] My father wasn't around.
[Hamilton] I swear that
[Hamilton/Burr] I'll be around for you.
[Hamilton] I'll do whatever it takes.
[Burr] I'll make a million mistakes.
[Hamilton/Burr] I'll make the world safe and sound for you.
[ハミルトン] 俺の父さんはそばに居てくれなかった。
[バー] 俺の父さんはそばに居てくれなかった。
[ハミルトン] 誓うよ、
[ハミルトン/バー] ずっとお前のそばに居るって。
[ハミルトン] そのためには何だってするさ。
[バー] 間違いも山ほどおかすだろうがね。
[ハミルトン/バー] お前たちのために世界を心配のいらない安全な場所にするよ。
途中でハミルトンも椅子に座り、同じ前かがみの姿勢で語りかけるように歌うハミルトンとバー。二人の前にいるのは観客。語りかけられているのはアメリカ合衆国の未来を生きている観客ひとりひとりなのかもしれません。最後の「世界を心配のいらない安全な場所にする」というのが果たされているのかどうか。フィリップとシオドゥジアに関していえば、第二幕で描かれるようにどうもそうはならなかったようで、それを考えると余計に胸をつかれるところではあります。そして本格的に声を合わせた合唱へ。
[Hamilton/Burr] You will come of age with our young nation. We'll bleed and fight for you, we'll make it right for you. If we lay a strong enough foundation, we'll pass it on to you, we'll give the world to you. And you'll blow us all away, some day, some day. Yeah, you'll blow us all away, some day, some day.
[ハミルトン/バー] 生れたばばかりの俺たちの国と一緒に、お前は大人になっていく。お前たちのために俺たちは血を流し戦うさ、お前たちにぴったりの国にするためにね。じゅうぶんに安定した基礎が築けたら、お前たちにそれを残していこう、ひとつの世界を送るってことだ。そうすれば俺たちを心底驚かしてくれるだろうな、いつの日にか、いつの日にか。そうさ、心底驚かしてくれるだろうな、いつの日にか、いつの日にかね。
未来への希望に満ちて、幸福度・調和でいちばんの頂点を迎えた二人。家族にとっての幸福と国家建設という公の仕事が一致している(ように見える)のもポイントです。ステージ上、二人だけなのに、お互いに目を合わせることがない(もちろん、それぞれの家にいるという設定なので当然なのですが)のも、子供世代に同じことを願いながら、お互いに通じ合えない二人の関係を示して、どうにも切ないですね。
さて、始めに書いたようにここが放物線の頂点。ということは、少しずつ落下が始まっていくわけです。その前に、第一幕の総決算となる "23. Non-Stop"というわけなんですが、どうやらその前に重要なシーンがあって・・・。
以下はspoiler(ネタバレ)ですので、観たくない人はすぐに次の記事に移ってくださいね。
*
オリジナル・キャスト・アルバムでは、"22. Dear Theodosia" と "23.Non-Stop" が直でつながるのですが、ここにちょっと違和感あると言えばある。家庭も大事にするよと誓った後に、ハミルトンのワーカホリックが全開になって家族が置いてけぼりになるので、そんなんでいいのかよ、と思ってしまいそう。
ところが劇場では、この二曲の間に1シーンあり、タイトルもついています。"22.5. Tomorrow There Will Be More Of Us”(22.5は仮につけたので、忘れてください)―Hamilton: An Revolution参照。曲としては “The Story of Tonight” の二度目のリプリーズ。歌詞は最初のヴァージョンそのままで、舞台右手に立ったローレンズによって歌われます。ただし、ちょっと様子がおかしい。画面真ん中では、机について仕事をしているハミルトンにイライザが手紙をもってやってきます。ハミルトンはどうせローレンズからだろ、後から読むから置いといてよ、と仕事を続けようとしますが、それはローレンズからではなくその父からの手紙。それも、ローレンズが戦争終結後のごたごたの中で撃ち殺されたという知らせ。その間じゅう、舞台右手で歌っているローレンズはじつはすでに死んでいたのでした。いちばんの親友の死に絶句するハミルトン、そして・・・。
Hamilton: A Revolutionで、ミランダはこのシーンをOBCアルバムに入れなかった理由を、1.歌というよりは短いシーンだから、2.劇場にくる人に驚きを残したいから、と二つあげています。ここは物語の中での一番のターニング・ポイント。ここまで仕事も家庭もいっしょくたで、多少のあつれきはあっても順風満帆だったハミルトンの人生が、戦争時代から平時へと移っていくなかで問題を露呈していく。その変わり目を象徴する箇所なわけで、2の理由からの省略はとりわけ効果的ですね。アルバムを聞きこんだ人も、ここでもう一歩深く作品に入り込むことになる。個人的には、『ハミルトン』中でこの場面がいちばん「泣ける」のですね。
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