2017年3月6日月曜日

『ハミルトン』とブロードウェイでのアジア系の活躍

さて、イライザ・スカイラー(ハミルトン)をオリジナルキャストとして演じたのはフィリッパ・スー(Philippa Soo)、愛称ピッパ。オリジナルキャストとしては唯一のアジア系(白人/中国系のハーフ)。その後、引き継いだ役者もだいたいラティーノかアフリカ系なので、『ハミルトン』の主な出演者ではいまだに唯一、といってもいいような気がします。インタビューで、アジア系の子供や若者から、アジア系を代表してくれてありがとう、と感謝されると言っていました。『ハミルトン』に関していくと、もっとアジア系や、さらに白人のメインキャストが登場してくるようになると、新しい展開だとおもうのですが、まだその時期ではなさそうですね。

フィリッパ・スーのインタビュー映像はこちら。
Phillipa Soo "Hamilton" Full Interview | BUILD Series

というわけで、いまだにブロードウェイ("the Great White Way"という仇名もある)では超マイノリティのアジア系ですが、すでにこのブログでもとりあげた『太平洋序曲』(Pacific Overtures; 1976)を始め、日本やアジア、アジア系関連の作品はちらほら登場するようです。そのうち、超メジャーなのは、『王様と私』(King and I; 1951)と『ミス・サイゴン』(Miss Saigon; 1989)でしょう。日本語でもくりかえし上映されていますね。あんまり有名なので、私がわざわざ書くことはなさそうですが、渡辺謙さんが『王様と私』で主演を張って、観劇に来たリン‐マヌエル・ミランダ夫妻との写真をTwitterにアップされてたようですね。『ミス・サイゴン』も日本語版でもロングランを果たしたヒットミュージカル。現在もブロードウェイでリバイバル上演(何度目かな?)がつづいています。

最近のアジア系ミュージカルとして注目は、Allegiance (初演2012年、ブロードウェイ初演2015年)。第二次世界大戦時、大統領令によって日系人が味わった強制収容体験を中心にしたミュージカル。タイトルは<アリージャンス>と読み、「忠誠」、ここではアメリカ合衆国への忠誠を意味します。日系人俳優で「スタートレック」シリーズ出演などで有名なジョージ・タケイ(George Takei)氏(Allegianceではおじいちゃん(Ojii-chan))が手塩にかけて育てた企画で、George Takei's Allegiance と書かれていたりしますね。オリジナル・キャスト・アルバムを聞くと、手堅い佳曲が多くて、ぜひライブで観てみたい作品。現在、アメリカで映画版が公開中で、日本でもそのうち見られるかもしれません。

面白いのは、『ミス・サイゴン』のキム(Kim)役でスターになったレア・サロンガ(Lea Salonga)が主役のひとりケイ(Kei)を演じているところ。彼女の歌う"Higher"は必聴です。母親を早く亡くし、弟を育て上げたケイが男として一人立ちしていく弟をうらやましく眺め、その後、自分の未来が開けていく可能性を明るく歌い上げる・・・。一曲の中で重層的な展開があって、何というか、この一曲で泣かされてしまう歌。サロンガはフィリピンのマニラ生まれ、ディズニー・アニメにも声優として多数主演していて、日本人でも名前を知らなくても何度も彼女の声を聞いているはずです。アジア系うんぬん関係なしでアメリカの人気歌手の一人、ここまできれいな声は確かに他になかなかいないですね。こちらは、『ハミルトン』劇場前のパフォーマンスに、Ham4Hamにサロンガが登場したときの様子。ミランダはサロンガの大ファン、彼女が超スターであるのがわかる映像です。曲は『アラジン』(1992)より、"A Whole New World" 。ラカモアがピア二カで伴奏しているのが微笑ましい。

もう一点、『ミス・サイゴン』と Allegiance の関係で興味深い点があります。『ミス・サイゴン』についてよくある批判が、オリエンタリズム的視点でアジアを描いている点で、ベトナム人のキムがおとなしく息子を引き渡して退場することで作品がフィナーレに向かうという点。アジア人を描いているようで、結局、白人中心の世界を引き立たせるためのプロップでしかない、ということですね。対して、Allegiance では、唯一、日系人社会の外からの重要キャラクター、白人看護師ハナ(Hannah)が途中で死んでいなくなってしまいます。ちょうど『ミス・サイゴン』がアメリカ(白人)社会で閉じてしまったように、Allegianceも日系人社会で閉じてしまう。ちょうど裏表の構図になっていますね。これはこれで興味深いことではありますが、もし Allegiance がハナというキャラクターをさらに活かして、日系人社会と外の関係を個人のレベルで示すことができれば一段上の作品になって、トニー賞に食い込むことも可能だったのでは・・・。

他、ロジャーズ&ハマースタインの『フラワー・ドラム・ソングス』(Flower Drum Songs; 1958)は中国系移民を描いた作品。沖縄出身の高良結香さんがリバイバル上演に出演されていたそう。高良さんは『マンマ・ミーア!』『コーラスライン』『RENT』など人気作品にいくつも出演していて、高良結香著『ブロードウェイ 夢と戦いの日々』(高田ランダムハウスジャパン、2008年)は演者からの日本語での肉声が読めて貴重です。こちらは『レント』の2009年来日公演のときの映像。この映像から関連映像を見ていくと、ていねいに紹介してくださっていて、ミュージカルの舞台裏についていろいろ学べますよ。

ブロードウェイにおけるマイノリティのプレゼンスは『ハミルトン』の登場によって大きく変わっていくことが必至でしょう。さらなるアジア系、日本出身のパフォーマー、さらには脚本家、作詞作曲者が登場するか、期待してしまいますね。

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