"23. Non-Stop"。第一幕のテーマを総決算して、政治の場という別の領域へ移し替える情報てんこもりの一曲。まるで、前二曲での宙づりで生じた遅れを一気に取り戻そうとするかのようです・・・。
ニューヨークに戻ったハミルトンとバーは学業を終え、弁護士として近所に事務所を構える。共同で殺人事件容疑者の弁護に当たったりもするが、余計なことまで話しまくるハミルトンに、簡潔さを旨とするバーは呆れかえる。ハミルトンはさらにニューヨーク代表としてに憲法会議に参加、国家システムについての持論を何時間もまくしたてる。発表された憲法の擁護論をいっしょに書くようにハミルトンに求められたバーはそれを断る。ハミルトンはイライザら家族を顧みず日夜を問わず働きまくる。相談相手のアンジェリカはロンドンへ移住してしまい、ハミルトンはバーが嫉妬する活躍を見せながらも孤独を深めていく・・・。
独立革命の戦闘終結を無事迎えることとなったハミルトンとバーの二人。それでも生活は続いていく、というわけで。始めの部分はバーの視点から、ハミルトンの上昇を眺めるというかたちになっています。
[BURR] After the war I went back to New York
[HAMILTON] A-After the war I went back to New York
[BURR] I finished up my studies and I practiced law
[HAMILTON] I practiced law, Burr worked next door
[Burr] Even though we started at the very same time, Alexander Hamilton began to climb. How to account for his rise to the top? Man, the man is
[Burr/Ensemble] Non-stop!
[バー] 戦争が終わってニューヨークへ戻ったよ。
[ハミルトン] 戦争が終わってニューヨークへ戻った。
[バー] 学業を仕上げて、弁護士として開業。
[ハミルトン] 弁護士として開業、お隣でバーもお仕事。
[バー] 同時に始めたはずなのに、アレグザンダー・ハミルトンは活躍をすぐ開始。なんであいつがてっぺんに上りつめたかって? まったく、あの男は
[バー/合唱] ノンストップ!
ハミルトンの姿勢は戦争前と変わっていないといえば変わっていません。なんといっても、"There's a million things I haven't done"ですから、休むわけには行きませんよね。面白いのは、この時点ではハミルトンとバーがある意味、よいコンビなところ。殺人事件の共同弁護をふたりでしたりします。
[バー] ハミルトン、座れ。私たちの依頼人リーヴァイ・ウィークスは無実であるって言って、最初の承認を呼ぶ。それ以上言うことはないだろ。
[ハミルトン] いいでしょう、もうひとつだけ言わせていただくと・・・
わが国最初の裁判であるこの件の意義は、と余計なことまで滔々と語り始めるハミルトンにすかさず突っ込むバー。お構いなく自説をぶちまけるハミルトン。バーは迷惑顔ではありますけど、羨ましいし認めてはいる、という口ぶりですね。
ただし、バーから見ると、ハミルトンの姿勢はちょっと理解できない(逆もそうなわけですが)。慎重派のバーにとって、とくに理解できないのは、何でもすぐに口に出してしまうところ。
なんて言っている間に、ハミルトンはここから憲法制定のための会議のニューヨーク代表になり、並居る有力者の前で6時間の演説をぶつなど大活躍(大迷惑?)。バーはまたもや、置いてけぼりになってしまいました。
とはいえ、ハミルトンのほうもバーを認めていなかったわけではない。アメリカ合衆国憲法が起草されて、しかし、それが実際に効力をもつべきか議論が巻き起こる。ハミルトンは憲法擁護派として、新聞を使って擁護論を出版することに。協力者をつのります。そこで白羽の矢を立てたのがバー。
[HAMILTON] Burr, you’re a better lawyer than me
[BURR] Okay
[HAMILTON] I know I talk too much, I’m abrasive. You’re incredible in court. You’re succinct, persuasive. My client needs a strong defense. You’re the solution
[BURR] Who’s your client?
[HAMILTON] The new U.S. Constitution?
[ハミルトン] バー、あんたは俺よりいい弁護士だ。
[バー] そうかね。
[ハミルトン] 俺は話しすぎなのは分かってるんだよ、気に障るタイプだよな。あんたは法廷では信じられないぐらいすばらしいからな。簡潔で、説得力がある。今度の依頼者には強力な弁護がいるんだ。あんたなら解決になるんだ。
[バー] で依頼人は誰なんだ?
[ハミルトン] 新しい合衆国憲法なんだけど。
ハミルトン自身にどうやらしゃべりすぎの自覚はあるらしいことが笑えますが、ちょっと褒めているところがわざとらしいかな。バーの "Okay"という応答も、絶対お前ほんとには思ってないだろ!でもほんとに思ってたらちょっとうれしいかも、という感じで笑えます。とはいえ(いつもの通り)バーは断ることに。
独立革命の戦闘終結を無事迎えることとなったハミルトンとバーの二人。それでも生活は続いていく、というわけで。始めの部分はバーの視点から、ハミルトンの上昇を眺めるというかたちになっています。
[BURR] After the war I went back to New York
[HAMILTON] A-After the war I went back to New York
[BURR] I finished up my studies and I practiced law
[HAMILTON] I practiced law, Burr worked next door
[Burr] Even though we started at the very same time, Alexander Hamilton began to climb. How to account for his rise to the top? Man, the man is
[Burr/Ensemble] Non-stop!
[バー] 戦争が終わってニューヨークへ戻ったよ。
[ハミルトン] 戦争が終わってニューヨークへ戻った。
[バー] 学業を仕上げて、弁護士として開業。
[ハミルトン] 弁護士として開業、お隣でバーもお仕事。
[バー] 同時に始めたはずなのに、アレグザンダー・ハミルトンは活躍をすぐ開始。なんであいつがてっぺんに上りつめたかって? まったく、あの男は
[バー/合唱] ノンストップ!
ハミルトンの姿勢は戦争前と変わっていないといえば変わっていません。なんといっても、"There's a million things I haven't done"ですから、休むわけには行きませんよね。面白いのは、この時点ではハミルトンとバーがある意味、よいコンビなところ。殺人事件の共同弁護をふたりでしたりします。
[Burr] Hamilton, sit down. Our client Levi Weeks is innocent and call your first witness, that's all you had to say.
[Hamilton] Okay, one more thing...
[Hamilton] Okay, one more thing...
[ハミルトン] いいでしょう、もうひとつだけ言わせていただくと・・・
わが国最初の裁判であるこの件の意義は、と余計なことまで滔々と語り始めるハミルトンにすかさず突っ込むバー。お構いなく自説をぶちまけるハミルトン。バーは迷惑顔ではありますけど、羨ましいし認めてはいる、という口ぶりですね。
ただし、バーから見ると、ハミルトンの姿勢はちょっと理解できない(逆もそうなわけですが)。慎重派のバーにとって、とくに理解できないのは、何でもすぐに口に出してしまうところ。
[Burr] Why do you always say what you believe? Every proclamation guarantees free ammunition for your enemies.
[バー] 自分が信じていることをいつもそのまま言っちゃうのはなぜなんだ? 放言するたびに敵に弾薬を回しているようなもんなのに。
なんて言っている間に、ハミルトンはここから憲法制定のための会議のニューヨーク代表になり、並居る有力者の前で6時間の演説をぶつなど大活躍(大迷惑?)。バーはまたもや、置いてけぼりになってしまいました。
とはいえ、ハミルトンのほうもバーを認めていなかったわけではない。アメリカ合衆国憲法が起草されて、しかし、それが実際に効力をもつべきか議論が巻き起こる。ハミルトンは憲法擁護派として、新聞を使って擁護論を出版することに。協力者をつのります。そこで白羽の矢を立てたのがバー。
[HAMILTON] Burr, you’re a better lawyer than me
[BURR] Okay
[HAMILTON] I know I talk too much, I’m abrasive. You’re incredible in court. You’re succinct, persuasive. My client needs a strong defense. You’re the solution
[BURR] Who’s your client?
[HAMILTON] The new U.S. Constitution?
[ハミルトン] バー、あんたは俺よりいい弁護士だ。
[バー] そうかね。
[ハミルトン] 俺は話しすぎなのは分かってるんだよ、気に障るタイプだよな。あんたは法廷では信じられないぐらいすばらしいからな。簡潔で、説得力がある。今度の依頼者には強力な弁護がいるんだ。あんたなら解決になるんだ。
[バー] で依頼人は誰なんだ?
[ハミルトン] 新しい合衆国憲法なんだけど。
[Burr] The constitution's a mess.
[Hamilton] So it needs amendments.
[Burr] It's full of contradictions.
[Hamilton] So is independence. We have to start somewhere.
[Burr] No. No way.
[Hamilton] So it needs amendments.
[Burr] It's full of contradictions.
[Hamilton] So is independence. We have to start somewhere.
[Burr] No. No way.
[Hamilton] What're you waiting for? What do you stall for?
[Burr] What?
[Hamilton] We won the war, what was it all for?
[Burr] What?
[Hamilton] We won the war, what was it all for?
[バー] あの憲法はぐちゃぐちゃじゃないか。
[ハミルトン] だから修正条項がいるんだよ。
バーとしては戦争を生き延びたからさらに慎重に、というところかもしれません。協力する機会がありながら、すれ違っていく二人。根本的な生きる姿勢の違いが、戦争時よりもさらに浮き彫りになっていきます。ハミルトンがバーに声をかけたかどうかは史実では分からないらしいですが、フィクションとしてはうまいエピソードですね。
ともあれ、バーに断られたハミルトンは、ジェイムズ・マディソンとジョン・ジェイと組んで、後に『フェデラリスト・ペーパーズ』(日本語抄訳が岩波文庫でも出ています。『ザ・フェデラリスト』という題)と呼ばれる記事を書いていくことになります。最初は25篇の論文を書く予定が、結果はというと、ぜんぶで85篇に。そのうちの51篇がハミルトンによるもの。ジョン・ジェイは途中で病気になってリタイアしてしまいますが、原因はハミルトンじゃないかなあ・・・。
てんこ盛りの曲なので、アンジェリカが途中でロンドンに行くわ、と言ってきたりしますがそのあたりは省略。ワシントンに呼び出されるところまで飛びます。
[バー] 矛盾だらけだ。
[ハミルトン] 独立の状況だってそうだろう。どこかから手をつけないと。
[バー] いや。絶対お断りだ。
[ハミルトン] 独立の状況だってそうだろう。どこかから手をつけないと。
[バー] いや。絶対お断りだ。
[ハミルトン] 何を待っているんだ? なんで躊躇する必要がある?
[バー] 何だって?
[ハミルトン] 戦争に勝ったのは、いったい何のためだってんだ?
[バー] 何だって?
[ハミルトン] 戦争に勝ったのは、いったい何のためだってんだ?
バーとしては戦争を生き延びたからさらに慎重に、というところかもしれません。協力する機会がありながら、すれ違っていく二人。根本的な生きる姿勢の違いが、戦争時よりもさらに浮き彫りになっていきます。ハミルトンがバーに声をかけたかどうかは史実では分からないらしいですが、フィクションとしてはうまいエピソードですね。
ともあれ、バーに断られたハミルトンは、ジェイムズ・マディソンとジョン・ジェイと組んで、後に『フェデラリスト・ペーパーズ』(日本語抄訳が岩波文庫でも出ています。『ザ・フェデラリスト』という題)と呼ばれる記事を書いていくことになります。最初は25篇の論文を書く予定が、結果はというと、ぜんぶで85篇に。そのうちの51篇がハミルトンによるもの。ジョン・ジェイは途中で病気になってリタイアしてしまいますが、原因はハミルトンじゃないかなあ・・・。
[WASHINGTON] They are asking me to lead. I am doing the best I can. To get the people that I need, I’m asking you to be my right hand man.
[HAMILTON] Treasury or State?
[WASHINGTON] I know it’s a lot to ask
[HAMILTON] Treasury or State?
[WASHINGTON] To leave behind the world you know…
[HAMILTON] Sir, do you want me to run the Treasury or State department?
[WASHINGTON] Treasury
[HAMILTON] Let’s go
ここオリジナル・キャスト・アルバムで聴くと面白いです。ワシントン閣下も大統領就任ということで自分に酔ってる感じで、ハミルトンにいつもの通り(?)訓示を垂れようとするのですが、ハミルトンは「財務、国務、どっち? どっち?」ってまったく聞いてない(笑)。さすがにワシントンもそれに気づいて、お話が尻切れトンボに。後で思い出すとあいつ、ほんとに話聞かねえなあと腹を立てるところかもしれませんが、逆にここではワシントンはあっけにとられている感じですね。
一見さらなる上昇を続けていくかに見えるハミルトン。ですが、このあたりから、その必死さにはここまでには見られなかったような危うさも漂い始めます。いちばん不安にさせられるのが、イライザとのやりとり。
[Eliza] Alexander...
[Hamilton] I have to leave.
[Eliza] Alexander...
[Hamilton] Look around, look around at how lucky we are to be alive right now. [Eliza] Helpless.
[Alexander] They are asking me to lead.
[Eliza] Look around, isn't this enough.
[Angelica] He'll never be satisfied.
[HAMILTON] Treasury or State?
[WASHINGTON] I know it’s a lot to ask
[HAMILTON] Treasury or State?
[WASHINGTON] To leave behind the world you know…
[HAMILTON] Sir, do you want me to run the Treasury or State department?
[WASHINGTON] Treasury
[HAMILTON] Let’s go
[ワシントン] リーダーになってくれと頼まれたんだ。全力を尽くそうと思う。必要な人員をそろえるにあたってだ、君には私の右腕になってもらいたい。
[ハミルトン] 財務ですか、国務ですか?
[ワシントン] 重責を押しつけているとは分かっている・・・
[ハミルトン] 財務ですか、国務ですか?
[ワシントン] これまで知っている世界を後にしてだ・・・
[ハミルトン] サー、私に担当させたいのは、財務局ですか、国務局ですか?
[ワシントン] 財務だ。
[ハミルトン] じゃあやっちゃいますよー。
[ハミルトン] 財務ですか、国務ですか?
[ワシントン] 重責を押しつけているとは分かっている・・・
[ハミルトン] 財務ですか、国務ですか?
[ワシントン] これまで知っている世界を後にしてだ・・・
[ハミルトン] サー、私に担当させたいのは、財務局ですか、国務局ですか?
[ワシントン] 財務だ。
[ハミルトン] じゃあやっちゃいますよー。
一見さらなる上昇を続けていくかに見えるハミルトン。ですが、このあたりから、その必死さにはここまでには見られなかったような危うさも漂い始めます。いちばん不安にさせられるのが、イライザとのやりとり。
[Eliza] Alexander...
[Hamilton] I have to leave.
[Eliza] Alexander...
[Hamilton] Look around, look around at how lucky we are to be alive right now. [Eliza] Helpless.
[Alexander] They are asking me to lead.
[Eliza] Look around, isn't this enough.
[Angelica] He'll never be satisfied.
[イライザ] アレグザンダー・・・
ほんの少し前、"22. Dear Theodosia" で赤ん坊のフィリップに、「誓うよ、ずっとお前のそばに居るって」("I swear that I'll be around for you.")と言っていた気持ちはどこに行っちゃったんでしょう。しょうがねえなあ・・・。イライザは "Look around~"の自分の言葉をまったく違う意味で使われて、どんな気持ちでしょうね。"Helpless"という言葉が最初に出てきた時と違う意味になってしまいました。「リーダーになってくれ」("They are asking me to lead.")ってのはワシントンがみんなに言われたことで、いやいやいや、ハミルトン君、あなたはワシントンさんに頼まれただけでしょ! と、いろいろ突っ込まずにはいられない(笑)。
[ハミルトン] 出かけないと。
[イライザ] アレグザンダー・・・
[ハミルトン] あたりを見回してごらん、ほら、私たちが今生きているっていうのは幸運なことだよ。
[イライザ] 救いようがないわ。
[イライザ] 救いようがないわ。
[アレグザンダー] みんながリーダーになってくれって言うんだ。
[イライザ] 身の周りを見てよ、これで十分でしょう?
[アンジェリカ] あの人は絶対に満足しない人よ。
最後の部分はまさにリプリーズの嵐―まさに第一幕の総決算、そして第二幕に向けてオーディエンスを放り投げる勢い。ここで書いても伝わらないと思いますので、こちらのリリック動画の5:45ぐらいからを音声とともに、ぜひご覧ください。5層ぐらいのテーマが怒涛のように流れていきます。このリプリーズのつながりを逆にたどっていくと、この曲はいくつの曲とつながっているんでしょうね。それだけのテーマを抱え込んで、第二幕へ向かうわけです。
そして、リプリーズの嵐が合唱での「歴史がお前のことを見つめている」("History has its eyes on you")に収束して、締めでもまた "3. My Shot" からのリプリーズ。ダメ押しですね。
[HAMILTON] I am Alexander Hamilton! I am not throwin’ away my shot!
[ハミルトン] 俺はアレグザンダー・ハミルトンだ! チャンスは無駄にしないぜ。
というわけで、勢いを全開にして、第一幕終了。"21. What Comes Next?" と "22. Dear Theodosia" で一度緩めておいて、"23. Non-Stop" でもう一度アクセルを全開に踏み込む。『ハミルトン』の全体の構成のなかでも、よく出来た部分だと思います。
そして、リプリーズの嵐が合唱での「歴史がお前のことを見つめている」("History has its eyes on you")に収束して、締めでもまた "3. My Shot" からのリプリーズ。ダメ押しですね。
[HAMILTON] I am Alexander Hamilton! I am not throwin’ away my shot!
[ハミルトン] 俺はアレグザンダー・ハミルトンだ! チャンスは無駄にしないぜ。
というわけで、勢いを全開にして、第一幕終了。"21. What Comes Next?" と "22. Dear Theodosia" で一度緩めておいて、"23. Non-Stop" でもう一度アクセルを全開に踏み込む。『ハミルトン』の全体の構成のなかでも、よく出来た部分だと思います。
初めまして。高校生のミュージカルファンです。ハミルトンの音楽が大好きで毎日聴いているのですが、自分の英語力では理解できていない歌詞やニュアンスがかなりあったため、このような記事で解説を読めてとても嬉しいです!
返信削除Non-Stopはミュージカルならではの色々な曲のフレーズが入ってくるので特に好きな曲です!✨
他の記事も楽しみにしています!
突然コメント失礼しましたm(__)m