というわけで、"14. Stay Alive"。ここから、順調に来ていたハミルトンのキャリアも小休止、から、赤信号がともって急停車へ―ー。
<あらすじ>
厳しい戦況のなか、ハミルトンは参謀兼秘書役としてペンの力で孤軍奮闘するワシントン将軍を支える。軍のナンバー2、チャールズ・リー将軍はイギリス軍が多勢なのを見て逃げ出し、さらにワシントンが無能であると糾弾して回る。ハミルトンはリーと決闘しようとするがワシントンに止められ、代わりにローレンズが決闘することに・・・。
曲は遠くから響く悲痛なイライザの声、それに重ねて銃声が響きます。
[Eliza] Stay Alive, stay alive.
[イライザ] 生き延びて、生き延びてね。
舞台上では、左端にいる"red coat"のイギリス軍兵士が、真ん中に座って必死にペンを走らせているハミルトンのほうに銃弾を放ちます。銃弾は(それを手をつまんだマイムをする女性キャストが軌道を表現しています)ハミルトンから逸れていく―。戦場に直接いなくても生死がかかっている状況がうまく描かれています。
さて、圧倒的な兵力差を乗り越えるためにワシントンがとった作戦は・・・、
[Washington] Don't engage, strike by night. Remain relentless 'til their troops take flight.
[Hamilton] Make it impossible to justify the cost of the fight.
[Washington] Stay alive until this horror show is past. We're gonna fly a lot of flags half-mast.
[ワシントン] 正面からぶつからず、夜に襲撃だ。敵の兵士が逃げ出すまで容赦なくな。
[ハミルトン] 戦争のコストを割りにあわなくさせると。
[ワシントン] このホラー・ショウが終わるまで生き延びろよ。山ほどの半旗を掲げることになるな。
ヒット&アウェイのゲリラ戦で、遠征であるイギリス軍を消耗させ、戦争コストが割りに合わなくさせる狙い。それでも、多大な被害は避けられない状況です(半旗(half-mast)とは喪に服すときに旗を一番上から少し下げて掲げること)。
ハミルトンはイライザや有能な部下に死んでもらっては困るとのワシントンの思いにも関わらず、これ以上に成り上がるためには、戦場に出て軍功を上げないとダメだ、と焦っています。ワシントンはそんなハミルトンを抑えて、リーを副司令官に。ただし、ワシントンが攻撃を命じればリーは退却するで、まったく息が合わない。そこで、登場するのが、俺ハミルトン!、と思いきや、ワシントンは「ラファイエットに指揮をとらせろ!」("Have Lafayette take the lead!")。というわけで、ラファイエット登場、リーに代わって指揮をとります(アレックス君、残念!)。
しかしこの曲のポイントは戦闘が収まったあと。リーはワシントンが無能だという中傷を始め、ワシントン陣営筆頭(特攻隊長?)ハミルトンはワシントンの名誉を守るという名目でリーに決闘を申し込もうとする。それを内輪もめしている場合じゃないと止めるワシントン。
[Washington] Don't do a thing. History will prove him wrong.
[ワシントン] 何もするなよ。やつが間違っていると歴史が証明するからな。歴史による物語のテーマのリピート。ただし、今回も(ほぼ毎回ですけれど)、ワシントンの忠告を理解しないハミルトン。「直々の命令に背くわけにいかないな」("I cannot disobey direct order.")と、さすがに自分が決闘をするわけには行かなくなりましたが、それなら、ということで、
[Hamilton] Laurens, do not throw away your shot.
[ローレンズ] じゃあ俺がやるよ。アレグザンダー、お前は今まで一番の友達だからな。
[ハミルトン] ローレンズ、チャンスを捨てたりするなよ。
と、ワシントンの代役のハミルトンの代役のローレンズが登場。当時の決闘のしきたり(名誉を守るのは本人だけ!)からしても、ありえないだろう、っていう感じらしいのですが、本当にやっちゃう流れに(史実どおり)。
この曲はリリックにも出てくるように、モンマスの戦い(the Battle of Monmouth)をモチーフにしていますが、史実とはかなり違う点もありますね(リンクは、現在は博物館になっているワシントンの家、マウント・ヴァ―ノンのウェブサイトより)。年表に書きましたが、1778年の戦闘が劇作の都合上、ハミルトン・イライザの結婚(1780年)の後に置かれています。また、『ハミルトン』を観る/聴くかぎりでは、リーはハミルトンたちと同じ世代かちょっと上にしか思えませんが、実際は1732年生まれで20歳以上年上、というか、ワシントン将軍とタメ歳。ワシントンが副司令官に任命したわけでもなく、現実の将軍の座をめぐるゴタゴタはもっともっとややこしいようです。
そういえば、実際の歴史として、ローレンズ/ラファイエットはハミルトンと同世代ですが、ハーキュリーズ・マリガンは1740年生まれで、なんと彼らより15歳も歳上。ハミルトンがアメリカに渡った当初に親しくなったわけですけど、実際のところは、マリガンが上から目線で、おもろい若者が来たなあ、どら、おっちゃんが面倒みたろ、という感じだったんでしょうね。
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